毎年この時期になると憂鬱になる。
今年も6月下旬、恒例の米中戦略・経済対話(以下、S&ED)がワシントンで開かれたからだ。近年米中両政府が発表する文書の量は尋常でない。一通り読破するだけで数時間はかかるのだが、中味はほとんどない。これを日本語では「骨折り損のくたびれ儲け」と言う。
こんなことが何年も続けば、S&ED関連文書など誰も読む気がしなくなる。米国の友人はこの文書量を「ナイアガラの滝」と形容したが、筆者は「大滝」よりも、むしろ「濃霧」だと思う。読んでも読んでも、米中関係の先は見えてこないからだ。
今回も、限られた情報に基づき、米中関係の行方を考えてみたい。
成果のなかったS&ED
まずは米中協議の結果から。S&EDは今回が7回目、中国からは楊潔篪国務委員と汪洋副首相が出席、米側はいつもの通り、ジョン・ケリー国務長官、ジェイコブ・ルー財務長官だ。
会合前にバラク・オバマ大統領が中国側代表と会見した。ホワイトハウス発表によれば、同大統領は中国側の「サイバー空間および海洋における活動」に米側の懸念を表明し、「緊張を緩和する具体的な措置」を取るよう促したという。
ケリー長官も、中国が行った岩礁埋め立てや軍事施設建設計画に対し「深い懸念」を伝達し、航行・飛行の自由や紛争の平和的解決を求める観点から自制や一方的行動の中止を求めたらしい。
これに対し、楊国務委員は一貫して、「中国の主権と領土の一体性を米国が尊重することが重要」などと反論し続けたという。どうやら、中国側はびた一文たりとも譲る気はないようだ。
米側発表文書では、米中双方が気候変動、海洋保全、人材交流など100項目以上で一定の成果を上げたなどと自画自賛している。ところが、肝心の「人民元自由化」、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」、サイバー問題などでは具体的な成果がほとんどなかった模様だ。
あの公表された膨大なペーパーはいったい何だったのだろうか。S&EDの体たらくは会合前から見えていた。筆者がそう考える理由は次の通りだ。