古賀茂明氏(元経済産業省官僚)が、テレビ朝日の「報道ステーション」の生放送で「菅官房長官が私をおろせと圧力をかけて経営陣が私を降ろした」などと10分余りにわたって主張し、"I am not ABE"(私は安倍じゃない)というプラカードを掲げた事件は、その後も波紋が広がっている。

 官房長官は「事実無根だ」と反論し、テレビ朝日の早河会長は謝罪した。古賀氏は「安倍政権の翼賛体制だ」などと批判しているが、政権とメディアの関係はそれほど単純ではない。戦前の大政翼賛会をつくったのは、朝日新聞だったのだ。

ガラパゴス的な「平和論争」の続く国会

 1月23日の「報道ステーション」で、古賀氏は「安倍さんは『後藤さん犠牲になっちゃうかもしれないけど、もっと大事なことがあるんだ』っていう判断をして、一連の発言をしたんだろう。[中略] 私だったら"I am not ABE"というプラカードを掲げて『本当にみんなと仲よくしたいです』と言いたい」と、安倍首相の人道支援を批判した。

 古賀氏は「日本は戦争しない国なんだと世界に訴えたい」と言っているが、テロリストとも戦わないで仲よくする国とは何だろうか。ここには彼の世代以上の人々の頭に刷り込まれてきた、戦後の一国平和主義が典型的に見られる。

 安倍首相を「危険な右派政治家」として批判する人々はいまだに多いが、彼の安全保障政策は常識的なものだ。こんなガラパゴス的平和主義が争点になる国は他にない。例えばアメリカのオバマ大統領はリベラル派だが、「『イスラム国』と仲よくしよう」とは言わない。

 こういう論争の原因は憲法第9条だが、ここにも歴史的なボタンの掛け違えがある。現在の憲法が占領下の特殊な状況で制定されたことは事実だが、安倍首相の祖父(岸信介)の時代ならともかく、いま第9条を改正してどういう意味があるのだろうか。

 自民党の改正案では、自衛隊の名称を「国防軍」とすることになっているが、中身には大きな違いはない。文民統制や有事法制などの整備は必要だが、それは憲法を改正しなくてもできる。