2月26日、IS(過激派組織「イスラム国」)の人間が、イラクのニネベ遺跡で、神殿や彫像などを破壊している映像がインターネットで流れた。ISがプロパガンダのビデオとして公開したのだ。
彼らが大きなハンマーや、道路工事でアスファルトに穴をあけるときに使うドリルなどで粉々にしているのは、2800年も前の文化遺産だ。見ているうちに、身体が震え、麻痺したようになった。この遺跡は本物なのだろうか?
遺跡は人類の共通の財産だ。こんな昔の物が、ほんの少しでも残っているとは何とうれしいことか。そして、それを何年もかかって根気よく掘り出した人たちがいるのもありがたい。おかげで、遺跡は廃墟から蘇り、私たちに貴重な歴史を垣間見せてくれる。
それを、なぜ破壊? 掘り出したあと、所有権を争うならまだわかる。見ているうちに、涙が出そうになった。
しかし、それでも、壊されている物は本当なのだろうかという疑問はこみ上げる。壊れた彫像の中から、鉄骨のようなものが突き出している。鉄骨なら偽物の証拠ではないか。彼らは、本物はどこかに持ち出して、資金源にしているような気がする。そのためのアリバイ工作の映像?
しかし、タリバンは2001年、アフガニスタンのバーミヤン渓谷の古代遺跡で、崖に刻まれた巨大な大仏を爆破してしまった。だから、イスラム国の破壊も本当かもしれない。そうだとすれば彼らは、過去から現在まで何千年にも亘って繋がっている糸のようなものを、無残に叩き壊していることになる。取り返しがつかない。
彼らの主張によれば、これらの彫像は、多神教崇拝であり、アラーの神への冒涜だという。しかし、本当のところは、力の顕示にすぎないのではないか? ただ、私には、過去を破壊しなければいけない理由がわからない。過去を壊したら、未来もなくなってしまう。
貴重な古代遺跡が世界遺産に登録されないイラクの国情
イラクは古代遺跡の宝庫だ。世界最古の文明、古代メソポタミア文明の発祥の地でもある。チグリス川とユーフラテス川に沿った肥沃な土地には、紀元前7000年から人が住み、紀元前3500年あたりには、すでに高度な文明が発達していた。