世界的に知られる靴デザイナーや靴メーカー350以上を紹介した靴の事典『シューズ A-Z』にTAMANO PARISというブランドが載っている。これがパリに住む、永島珠野(ながしま・たまの)さんのオリジナル手作り靴のブランドだ。

 珠野さんは、つい最近まで、フランスでは男性が独占していた靴作りを身に付けた女性だ。師匠は、100歳を超えても作っていた靴職人の巨匠モーリス・アルヌ(Maurice Arnoult)

 「女性の靴は同性である女性が作るべき」と考える彼女は、オリジナルのデザインでフランス人女性を惹きつける。その珠野さんのきらめく靴の世界をご紹介したい。男性の読者は、TAMANO PARISの靴を恋人や妻に、また娘さんに贈りたくなるかもしれない。

男性社会の靴職人の世界で出合った”男子禁制”の靴工房

華やかな組み紐の靴は人気商品。紐も珠野さんの自作。TAMANO PARISのロゴも可愛らしい。注文は通常1カ月ほどでできあがる(靴の写真提供:TAMANO PARIS、以下同)

 路地から見た店外の雰囲気も、靴や工具であふれる店内の空気も、優しさが感じられる。華やかな組み紐の靴、丁寧な作りの皮靴、可愛らしいエスパドリーユなど、どれを見ても素敵だ。

 それらを作った珠野さんも魅力的。ふわりとしたフェミニンな印象と芯の強さとが会った瞬間に伝わってきて、筆者は同性ながら惹きつけられた。

 珠野さんは、デザイン、木型の補正、型取り、裁断、縫製、底付け、仕上げといった靴の工程をすべて自分の手で行っている。

 彼女のような女性靴職人はフランスには少ない。「何センチもあるハイヒールだって、男性が作るんですよ」と説明するように、この国では男性が独占してきた。女性には閉ざされていた靴作りの専門教育が、若い女性に限って門戸を開いた(開始年齢の上限は18歳)のは、つい最近のことだという。

永島珠野さん。体当たりでビジネス感覚を磨いてきた。「注文の波があり先行きは不安ですが、作ってみたい靴が山のようにあります。アイデアが尽きるまで作り続けるでしょうね」(靴以外の写真はすべて筆者撮影)

 さらに、自分のブランドを継続していることも珍しいという。初めはフリーの靴デザイナーとして仕事をし、その後、靴職人になった。店を構えて8年が経った。

 師匠モーリス・アルヌは、2010年に102歳で他界した。手掛けた靴は、数多くの著名人を魅了した。靴工場の経営者も経験した。亡くなるまで、靴のために、靴と共に生きた。

 パリにアトリエを構えていたモーリスは、非常に有名だった。熟練した技を持っている靴職人として、そして、女性達に靴作りを教える教師として。