円高が一段と進行し、株安に結びつく中で、政府・日銀が対応に苦慮している。

 ドル/円相場は8月24日、野田佳彦財務相が記者会見で「足元の為替の動きは明らかに一方向に偏っている。重大な関心を持ち、きわめて注意深く見守る」と述べたものの、為替介入については「コメントしない」としたことが円買い材料に使われる中で、東京市場の時間帯に84.45円をつけた。その後も円高ドル安の流れが続き、米7月の中古住宅販売が年率383万戸(前月比▲27.2%)と、市場予想中心を大きく下回る水準になったことで米景気の先行き不安が強まると、欧米市場で一時83.58円を記録した。これは1995年6月以来、約15年2カ月ぶりの円高水準。また、ウェーバー独連銀総裁発言を材料にしたユーロ売りの流れが続く中で、ユーロ/円は一時105.44円をつけたが、これは2001年9月以来、約9年ぶりの円高水準である。米株式市場ではニューヨークダウ工業株30種平均が4日続落し、終値は1万0040.45ドル。取引時間中には7月7日以来の1万ドル割れとなる場面もあった。米独の長期金利はさらに低下。米10年債利回りは2.5%を割り込んで、一時2.46%まで低下(2009年3月19日以来の低水準)。独10年債利回りは過去最低の2.13%に低下する場面があった。

 日経平均株価の9000円割れを報じた8月24日の夕刊各紙1面には、「円高放置に失望」「早期の円高対策催促」「政府・日銀へ失望広がる」「政府・日銀の無策に失望」といった見出しが並んだ。日経だけがやや異なる見出しのつけ方で、「政策手詰まり見越す」としたが、3面では「株価下支え材料不足政府・日銀に円高対応促す」としていた。

 しかし筆者自身は、市場では少数派なのだろうが、今回の円高・株安・債券高を「政策催促」相場と位置付けた上で、政府・日銀の無策を批判する論調には、違和感を禁じ得ない。

 円高ドル安が進行している原因は、突き詰めて言えば、巨大なバブルが崩壊した米国経済が構造調整を長期間にわたって強いられるという厳然たる事実が市場に浸透したからである。日本政府の財政運営や、日銀の金融政策運営に、円高の原因を求めるのは誤りであり、本当に必要なのは、米国が構造調整を終えるまでの「時間」である。

 また、ありていに言えば円高を阻止して流れを決定的に反転させることのできるようなカードを、日本の政策当局は有していない。市場には、菅直人首相と白川方明日銀総裁の8月23日の協議が、電話でわずか15分にとどまったことを批判する声もある。しかし、両者が面談することで市場の思惑(とその反動)を膨らませるのは望ましくないという判断自体は、決しておかしなものではない。白川日銀総裁は8月26~27日に米ワイオミング州ジャクソンホールで開催される中央銀行関係者の定例のシンポジウムに出席する方向で調整中と報じられており、その場合、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長やトリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁とじかに意見交換をする機会があるとみられる。菅首相との面談は、その後の方が望ましいだろう。連合の古賀伸明会長との会談での発言内容からみて、ジャクソンホールでの日米欧中央銀行総裁による意見交換を、菅首相も重視しているようである。

 日銀が新型オペ拡充や翌日物金利誘導水準引き下げなどに動いて、円の長短金利水準がわずかに低下して、思惑的な円ロングポジションの解消に結びつくとしても、そのこと自体が今般の円高局面の最大の原因に対する決定打にはなるわけではない。日銀幹部からは、「産業界が悲鳴を上げるような円高になるなら、もはや金融政策で対処できる話ではない」「(日銀による)特効薬はない」という発言も出てきている(8月24日 共同)。