「ふらんすへ行きたしと思へども ふらんすはあまりに遠し せめては新しき背広をきて・・・」と歌ったのは萩原朔太郎。
歴史を身近な存在に料理する術を心得たフランス人
その頃のフランスと言えば、モードの花が咲き、のちにビッグネームとなる画家たちが世界中から集った20世紀初頭のベルエポックの時代。当時のこの地への憧れは格別のものだったに違いない。
現在、フランスが世界で最も観光客を集める国であることの基礎は、このあたりの時代までに蓄積された有形無形の遺産によって成り立っているといっても過言ではないだろう。
しかも、この国の人々は、それらを上手に料理して、飽きさせることなくテーブルに載せる。そういう芸当に優れた人々と言えるかもしれない。
パリ観光の人気スポットの1つに数えられるモンマルトル。そこで繰り広げられる一風変わった試みが話題になっている。
これは、「L’Esprit de Montmartre(レスプリ・ドゥ・モンマルトル=モンマルトルのエスプリ)」と銘打った一種のスペクタクルで、ガイドの解説つき観光とお芝居が一体化したようなものだ。
8月の日曜日、私もそのスペクタクルを観るために、モンマルトルの丘に登った。
あらかじめ電話かインターネットで予約してから、スタートの15分前にパリで最も高所にあるCalvaire(カルヴェール=磔刑)広場に集合するのだが、私が到着した時点で、チケットを買う人々がすでに渦を描くようにしながら列を作っていた。
ざっと見ても数十人という規模である。そこへ時間きっかりに、弦楽四重奏の生演奏をバックに1人の俳優が登場。
彼、ジャン=フィリップさんが我々観客グループを率いるガイドの役を務める。さて、いよいよツアーのスタートということになるのだが、まずは記念写真を撮ろうと、彼は参加者たちを並ばせて年季の入ったカメラを取り出した。