「最悪の悪夢」――。
“Now Everyone Can Fly”をスローガンに、アジアの空に初めてLCC(格安航空)を誕生させ、「世界最高のLCC」と賞賛されてきたアジア最大の格安航空会社、エアアジア(本社・マレーシア、グループ統括拠点・インドネシア)を創業したトニー・フェルナンデスCEO(最高経営責任者)は、QZ8501便の墜落事故直後、そう言ってうな垂れた。
破竹の勢いで事業を拡大したカリスマ経営者を襲った悪夢
世界の航空会社で唯一サッカークラブを所有(英国プレミアリーグ)、F1にも参入するなど(2014年7月にチーム売却)、米経済誌「フォーブス」など多くのメディアがフェルナンデスCEOをアジアで最高の経営者と称えてきた。
筆者も単独取材などで面識があるが、事故後の彼は、いくつもの試練を乗り越えてきた勇敢な挑戦者の覇気は消え、「こんな意気消沈ぶりはない」(親しい友人)。
普段は、人との距離を遠避けるスーツが大嫌い。ノーベル賞受賞者を輩出するロンドン・スクール・オブ・エコノミクス出身のエリートだが、ジーンズにTシャツ、赤いエアアジアの帽子をかぶり、眼光は鋭いが、出で立ちは至ってカジュアル。
自らのツイッターのフォロワーも100万人を超え、絶大な人気を誇るカリスマ経営者だ。
先見の明を持ち、産業界でも特に「国益」が重く立ちはだかる航空業界や航空行政に規制緩和の風穴を開けてきた“優秀な異端児”だからこそ、今回の子会社、インドネシア・エアアジアの失踪から墜落事故という最悪の悲劇の結末が投げかける創業以来の最大のピンチに、これまでにない危機感を抱いている。
事故から11日目の7日、インドネシア政府は尾翼部分を発見したと発表。機体から落下してなければ、通常、ブラックボックスが格納されてるはずだが、現時点で(日本時間8日夜)肝心の信号を確認しておらず、原因究明の鍵となるブラックボックス回収の目処は立っていない。
全容解明にはさらに時間を要するとみられ、危機感は和らぐどころか、次から次へと明らかになる”不都合な事実”に謎や疑惑も絡み、これまでのエアアジアへの信頼感が日に日に失われ、経営面での影響も不安視される。