借金などの様々な事情で夜逃げしたい人たちを助ける『夜逃げ屋本舗』という映画のシリーズが日本でヒットしたのは、1990年代前半。20年後の今、米国で「夜逃げ屋」のような会社が雨後のタケノコのように出現している。

 映画と違う点は、夜逃げする人たちが全員「住宅ローン」から逃れようとしていることだ。どの「夜逃げ屋」のウェブサイトを見ても、同じ言葉で住宅ローン返済に苦しむ人たちに語りかけている。

 「いっそのこと投げ出してしまいなさい」と。

支払い能力があるのに家を捨てる米国人

 現在、米国で政府や銀行の悩みの種になっているのは、失業や病気などのやむを得ない経済的な事情で住宅ローンを支払えなくなってしまった人たちではない。支払い能力があるにもかかわらず、住宅ローンを放棄して家を捨てる方が長期的に見て経済的に理にかなっていると判断した人たちだ。こうした判断は、「戦略的デフォルト」「戦略的債務不履行」などの名前で知られる。

 住宅ローンを放棄する人たちは、米国では通称「投げ出し人(Walkaways)」と呼ばれている。前述の夜逃げ屋が助けているのは、こういった人々である。

 ポストに鍵を残し、夜のうちに家財道具と共に消える古典的な夜逃げもあれば、貸し手の銀行に鍵を送りつけ堂々と引っ越す人、また単にローンの返済を止め、追い出されるまで居座る例もある。

 昨年は史上最高の300万件に近い住宅が競売にかけられた。政府は、そのうちおよそ100万件が「投げ出し」物件だと見ている。現在でも、競売物件の4件に1件は捨てられた家だという。

不動産バブル崩壊で住宅価値が大幅に目減り

 投げ出す理由は、不動産バブル崩壊後、住宅の価値がローンの返済残高よりも大きく下回ってしまったからだ。

 例えばサンフランシスコ郊外に住むAさんの場合、2006年の不動産価格ピーク時に購入した家のローンがおよそ3500万円残っている。返済期間は30年だ。現在、この家の価値は2000万円前後だという。

 Aさんはこれまで、ローン返済、家の保険、財産税を合わせて月々18万円支払ってきた。だが現在は、近所にあるもっと広い家が月額7万円で借りることができる。

 「家が競売にかけられれば、しばらくローンを組めなかったり、金融機関のブラックリストに載ることは分かっていました。けれども、30年間苦しみ続けるより数年我慢するほうが賢明だと思い、ローンの支払いを止めました」とAさんは語る。