中国では、2008年8月から独占禁止法が施行された。独禁法は不正な市場競争を防止し、公平な市場競争を担保するための法律である。市場経済にとっての重要性は言うまでもない。

 中国政府が市場経済の構築を明文化したのは1990年代の初期だった。だが、国有企業による市場独占や知財権侵害は取り締まられることがなかった。

 胡錦濤政権下では「国進民退」が進み、国有企業による市場独占によって公平な市場競争が妨げられてきた。そして、多くの外国企業からは中国で知的財産権が侵害されているという不満が募っている。知財権の侵害は中国の独禁法の第55条に抵触することになっているが、中国政府の対策は十分とは言えない。

 こうした状況下で、中国政府は態度を転換させたようだ。政府はマイクロソフトやメルセデスベンツなどの多国籍企業が独禁法に違反しているのではないかと大がかりな調査に乗り出している。外国メディアでは、これは外国企業を狙い撃ちにしているとの論評が散見される。なぜこのタイミングで中国政府が独禁法違反に関する大がかりな調査に乗り出しているのかは明らかではない。中国の景気が減速していることを考えれば、ここで外国企業を懲らしめる選択肢はないはずである。

外国企業が支えてきた中国の経済成長

 そもそも独禁法の制定について、「市場独占を防ぎ、公平な市場競争を担保するためである」と同法第1条で記されている。このような大義名分から、いかなる企業も、市場を独占し公平な市場競争を妨げていれば、調査を受け同法に則って処罰されるのは当然のことである。

 これまで中国政府は外資企業を誘致するために、様々な優遇政策を講じてきた。例えば、地場企業に比べ、外国企業に適用される法人税は大幅に減免されていた。

 地場企業から見れば、こうした外資優遇政策こそ公平な市場競争を妨げていることに他ならない。しかし、もちろん中国政府は外資企業を無条件で優遇したわけではない。というのは、「改革開放」初期において、中国は深刻な外貨不足と低い技術力に悩んでいたからである。優遇政策で外資を誘致すれば、外貨不足を緩和し、低い技術力を補うことができる。

 外国企業は中国の「改革開放」の立役者だったと言って過言ではない。中国ではこの三十余年で奇跡的な経済発展が成し遂げられ、今や世界一の外貨準備を保有し、モノづくりの技術も、世界一流とは言えないものの、「世界の工場」と言われるほどその技術力は大幅に躍進している。