前回(「スリーマイルとチェルノブイリを調査した疫学者」)に引き続き、首都ワシントンにある国立がん研究所(National Cancer Institute = NCI)に勤務する疫学者であるモーリーン・ハッチ博士のインタビューをお届けする。

 ハッチ博士はコロンビア大学の調査チームの責任者として、スリーマイル島原発事故の疫学調査を行った。その後、チェルノブイリ原発事故の疫学調査にも参加している。つまりハッチ博士は、世界で3例しかない原発事故のうち2例の調査をしたことがあるという世界でもほぼただ1人の疫学者なのである。

 ハッチ博士は福島第一原発事故の影響をどう評価するのだろうか。今回のインタビュー部分で注目すべき点は次の通りだ。

(1)「疫学者が甲状腺がん以外のがん=(例えば)乳がんを調査しないからといって、それは『乳がんが発生しないから』あるいは『安全だと判断しているから』ではない」ということだ。フクシマでの調査でもそうなっているが、甲状腺がんは「被曝との関係を比較的特定しやすいから」調査が優先される。乳がんは発生要因が被曝のほかに多すぎて、関係性を論じにくい。また潜伏期も長い。甲状腺がんは被曝との関係が比較的明確なので、論じやすい。だから甲状腺がんが優先して調査される。残りは資源(時間や労力、予算など)の問題で調査するかどうかが決まる。

(2)がんの潜伏期間を考えると、調査には最短でも5~10年はかかる。最低でも10年あるいはもっとでしょうか。先ほど言ったように甲状腺は4~7年。白血病は比較的早い。他のがんならもっと長い。

(3)現在フクシマで観察されている甲状腺がんは潜伏期間から考えて、被曝が原因ではない。

(4)疫学調査は本来「後追い」である。病気が発生したあとに因果関係の有無を調べる。よって本来「病気になるかどうか」という「未来」を予測するのには向かない。