米国では中南米出身者約5000万人が働き、祖国向けの仕送りは年間6兆円規模に達する。ところが、移民の大半は銀行口座を開設できない貧困層であり、送金専門業者に仕送り額の15%程度も手数料として泣く泣く支払わざるを得ない。窮状を見かねて立ち上がったのが、枋迫篤昌氏(とちさこ・あつまさ=元東京三菱銀行ワシントン事務所長)。長年、中南米諸国に駐在した元東銀マンは「恩返し」を果たそうと、2003年にワシントンでマイクロファイナンス・インターナショナル(MFIC)を起業。インターネットを活用する独自のソフトウエアを開発し、送金手数料を大幅に引き下げる「価格革命」を起こした。
今では米国から世界85カ国への送金体制を整え、金融危機下でも月間10万件の取り扱いを目指す勢い。昨年末、米有力経済誌フォーチュンとマサチューセッツ工科大学が貧困削減の技術振興を目的に創設した「レガタム・フォーチュン技術賞」の第1回受賞者に選ばれた。JBpressは一時帰国した枋迫MFIC社長にインタビューを行い、「革命第2幕」戦略や日本進出の可能性などを聞いた。
JBpress 国際送金の手数料を大幅に引き下げ、金融界で「価格革命」を起こした。革命の第2幕をどう描いているのか。
枋迫氏 1つは、米流通業界のPOS(販売時点情報管理)ネットワークを活用すること。自前で店舗を開いて顧客を探す現行モデルに加え、利便性の高い既存のインフラで送金処理を追求する。2つ目は携帯電話のショート・メッセージ・システム(SMS)で、送金を受け付けるようにする。その次が、ウェブ上でのサービス提供になる。(パソコンを持つ移民であれば)既に銀行サービスを受けている人が多いから、そうなれば取引件数は爆発的に伸びるだろう。
既存の銀行は中間層以上、人口構成では上から4分の1までにしか、満足なサービスを提供できていない。その発想では、「金融イノベーション」とか色々言って商品開発をしようとしても、上の層を見た開発しかできない。そもそも、下へ行くためのノウハウがない。銀行が相手にしない顧客層に対し、テクノロジーを使って良いサービスを提供すれば、取り込みが可能になる。だから、私たちのビジネスでは、ボトムラインの基本インフラを押さえることが絶対に重要だ。
――MFICは金融危機の影響を受けていないのか。
枋迫氏 金融恐慌とかパニックとか言われる中、過剰流動性を抱えて何かに投資しないといけないマネーゲームのプレーヤーは、一旦おかしくなると全部止まってしまう。
一方、昨年9~10月の当社のビジネスは60パーセントも伸びた。必要なサービスであれば、どんなことが起きようとも、絶対に実需は落ちない。食料品や飲料水の購入を省けないのと同様、移民相手のファイナンスも生活に不可欠な基本的なサービスだ。逆にこういうパニックになると、送金手数料が1ドルでも安いものを皆が探し始める。ボトムラインのインフラで良いものさえ揃えれば、景気の良し悪しに関わらず、必ず需要は生じてくる。
――送金の扱い件数はどれぐらいか。
枋迫氏 昨年1月は月間1.2万件だったが、6月には4.5万件まで増え、現在は6.5万件に達した。10万件というターゲットをクリアできれば、次のステップへの弾みがつく。
――米国から何カ国に送金可能か。
枋迫氏 システム的に展開可能という意味では85カ国。作業中なのが20カ国ある。現在、アフリカ向けプロジェクトに注力しており、実現すれば48カ国約3000拠点が加わり、業界ネットワークとしては最大級に近くなる。
――送金手数料の体系は。
枋迫氏 基本的に全世界共通の値段にするから、米国からアフリカへ3000ドル送る場合でも手数料は20ドル。送金専門業者は(少額送金の場合)15%も手数料を取り、3000ドル送るには300ドル程度かかっているはずだ。