昨年6月、IT業界全体を揺るがす事件が発生した。通称「スノーデン事件」だ。米国の諜報機関であるNSA(National Security Agency、米国防総省・国家安全保障局)で働いていたエドワード・スノーデン氏が、NSAが地球規模で展開している情報収集プログラムを内部告発したのだ。

 この情報収集プログラムの対象となっていたのは、世界中の携帯電話の通話履歴、インターネットのアクセスログやメッセージの内容であり、大量かつ多岐に渡るものであった。

日本の一般市民や企業にまで及ぶ米国の諜報活動

 スノーデン氏の内部告発は、大きな驚きを持って受け止められ注目を集めたが、特に米国内では、そのターゲットに米国市民が含まれていることが問題視された。

 911事件以降「テロとの戦い」というお題目のもと、米国市民の間でも政府の諜報活動を黙認する傾向が強くなっていたが、さすがに自分たちのプライバシーが暴かれているとはただごとではないと異論が相次いだのだ。

 一方で、この事態の進展を見て、私は戦慄を覚えざるを得なかった。何しろ米国政府は、米国市民の情報に関しては「それは手続きのミスだ」とか「そんな事実は存在しない」などと言い訳をしたものの、外国人である私たちについては「特段何の問題もない」とふんぞり返ったのだ。

 1994年の日米貿易摩擦の際、米国政府はスパイチームを組織し、日本国内での関係者のやり取りを盗聴し、交渉を有利に進めたという話が伝えられている。米国とはそういう国なのだということは分かっていたつもりだった。しかし、その諜報活動が日本の一般の市民や企業活動にまで及んでいるとは考えていなかった。

内部告発を報道したジャーナリストの本が明かすNSAの狂気

暴露: スノーデンが私に託したファイル』(グレン・グリーンウォルド著、新潮社、1800円・税抜き)

 そのスノーデン氏からの内部告発を受けて、ジャーナリストとして世界に向けて記事を配信したグレン・グリーンウォルド氏がこの事件に関する本『暴露: スノーデンが私に託したファイル』を出版した。

 この事件の発生以来、私は最大限の注意を払って報道を追いかけていたが、結局のところ散発的な記事を通してしかその内容を知ることができず、忸怩たる思いをしてきた。今回、事件の渦中にいた著者によって書かれた本が出たことで、初めてその全容を把握できた。

 この本を読み終わり、私はさらに恐ろしくなった。一言で言うと、NSAは異常だということだ。「全てを集める(Collect it all)」という考え方のもと、彼らが収集している情報の主なものをまとめると以下のようになる。