ベトナムとフィリピンは、この1カ月ほど、中国相手に実に奮闘している。とりわけ筆者がかねて注目しているのは、その戦い方である。
中国は、法律戦、心理戦、世論戦からなる、いわゆる「三戦」がお家芸のようだが、ベトナムとフィリピンが眼前で展開しているのも、まさに彼らなりの「三戦」なのだ。
中国が、国際法上根拠のない歴史のロジックをまま主張するのに対して、ベトナムとフィリピンの三戦はずいぶんと性質が違う。
現代世界では、「事実をして語らしめる」ことほど強力な武器はない。今、軍事力では中国に正面から立ち向かうことができないベトナムとフィリピンは、武器のようなハードなパワーではなく、ありのままの事実を語ることで、その潜在的なソフトなパワーを全開しつつある。
ベトナム政府が記者会見で示した動かぬ事実
この点で、6月5日午後4時からベトナム政府のゲストハウスで行われた「東海(ベトナムで言う南シナ海のこと)情勢に関する国際プレス会議」と題された記者会見は実に見ものであった。
そこには、5月初頭より多忙きわめる3人のベトナムの主たる役者が勢揃いした。外務省のレ・ハイ・ビン報道官と、国家国境委員会のチャン・ズイ・ハイ副主任、そしてベトナム海洋警察司令部のゴ・ゴック・トゥ副司令官である。
3人は、この1カ月程の間に起きた事態を次のように淡々と述べたのである。
・中国が石油掘削装置「海洋石油981」をベトナムの大陸棚と排他的経済水域に不法に設置して以来、1カ月が過ぎた。ベトナムは中国とコミュニケーションを図るべく、様々な場とレベルで多大な努力を払ってきた。これは、ベトナムの主権と管轄権に違反する中国の全ての行動を停止するように求めるためである。
・すでに30回以上にわたって、中国との間でベトナムはコミュニケーションを行ってきた。また、ベトナムの海上法執行船は、中国が石油掘削装置と中国監視船を即時に撤退させるように求めるにあたって、最大の節度を維持してきた。