「国」の輪郭についてまた衝撃的な事件が起こった昨今のユーラシア情勢を考えるうえで、「人の移動」と「物流のつながり方」という古典的であるが「線」の問題をまた考える必要が出てきているように思える。
コーカサスのような、ユーラシアの中央部に位置して、歴史的に常にある種のバッファーゾーンあるいはミドルグラウンド(緩衝地域、中間地帯)として存在してきた地域を観察していると、様々な「つながり方」についてより多角的な情報に接することが多い。
隣国でも行き先は違う
昨年、グルジアとアルメニアを訪れた際、旅行の計画を立てることに苦労した。両国ともに乗り入れている航空会社が少なく、グルジアから入ってアルメニアから帰路に就くという航空券の手配が容易ではなかったのである。
南コーカサスの2つの小国はともに旧ソ連を構成した共和国であったが、独立後の政策は大きく異なる。グルジアは親西欧路線、対して隣国アゼルバイジャンとナゴルノ・カラバフを巡って厳しい緊張関係が続くアルメニアは、ロシアへの依存度が大きい。
帰路、エレバン空港で飛行機の行き先を見ていて、非常に驚いた。朝の時間帯、1時間に何本もモスクワに向かって飛行機が飛び立っていく。
1995年秋、筆者が最初にグルジアを訪れた際にはモスクワ経由であったが、その後はほとんど利用していない。2008年のロシアとの戦争以降はモスクワからグルジアへの直行便すらしばらく途絶えていたほどである。
グルジアではトルコやドイツ、ウクライナへの飛行機が頻繁に出ている。アルメニアではモスクワのほかにもロシアの各都市や中東を結ぶ便が目立つように思った(レバノン、シリアやイランなど、中東におけるアルメニア人のプレゼンスは非常に大きい)。
このように、隣り合わせた国でありながら、空港の掲示板を眺めるだけでその国外との「つながり方」の大きな違いに気づくことになる。
国の結びつき方とその多様な形
もう十数年前になるが、イランの学会に参加した際、イラン国外の参加者にロシア、アルメニア、ギリシャの参加者が多く、ある種の「アーリア」同盟(4国ともインド・ヨーロッパ語族)を見て取ったことがある。これに対してトルコ・アゼルバイジャン・中央アジア諸国など「大トルコ」圏は別の軸として考えることができよう。
実際に、近年浮上している地域の鉄道路線(ちなみにコーカサスの鉄道の歴史は大変古いが、現在は甚だしく老朽化している)を巡る動きでも、例えばペルシャ湾と黒海地域を南北に結ぶ南アルメニア鉄道構想がイラン・ロシア・アルメニアによって打ち出される一方、トルコ・アゼルバイジャン・グルジア3国によるによるカルス・トビリシ・バクー線(一部新路線)も議論が本格化している。