米金融規制改革法は、オバマ大統領の署名により、2010年7月21日に成立した。
2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻をきっかけに深刻化した金融危機の再発を防ぐため、1930年代の世界恐慌以来、約80年ぶりとなる規制・監督制度の大幅な見直しが本格化した。しかし、規制強化に反発する金融界が強烈なロビー活動で巻き返し、政府が当初導入を目指した銀行によるリスク投資の全面禁止措置が見送られるなど、最終的には妥協の産物となったことは否めない。
金融界がボルカー・ルール阻止にやっき
米下院が金融改革法案を可決したのは約8カ月前の2009年12月11日に遡る。ところが、年明け2010年1月21日の大統領会見で、同法案は新たな役割を担わされた。
預金保険法で守られた預金を元手にリスク投資で儲けることは許されない──。オバマ政権の経済政策ブレーンであるポール・ボルカー元連邦準備制度理事会(FRB)議長が旗振り役となり、リスク取引の完全分離という、金融大手解体にもつながる「ボルカー・ルール」が新たに盛り込まれることになったからだ。
「政権の本気度」に触れた米金融市場は動揺し、株価は大きく下落した。ところが振り返ってみると「金融関係者の緊張がピークに達したのは『ボルカー・ルール』の発表時。それ以降は緩まる一方」(米証券アナリスト)だった。
規制改革が融資抑制や雇用喪失を招くと主張する全米銀行家協会などの業界団体は、徹底した議会工作を通じて、ハイリスク・ハイリターンに代表されるウォール街の収益構造の温存に全力を傾けた。
「人質」にされたゴールドマン
もちろん政権側も、金融界の反撃に無抵抗だったわけではない。4月16日には、米証券取引委員会(SEC)が突然、ゴールドマン・サックスの民事提訴に踏み切った。
訴因は、低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローンを裏付けとする証券化商品の不正販売。金融危機発生時から遡って2007年のゴールドマンの「犯行」を追及し始めた当局の動きは、市場関係者の目に「規制改革を実現するために、ウォール街の老舗を人質に取った」と映った。