オバマ政権は明らかに焦っていた。最重要課題として掲げた医療保険制度改革は3月末の関連法成立で前進したが、賛否は割れ、大統領支持率の浮上に寄与しなかった。今秋の中間選挙で民主党が勢力を大幅に縮小するとの見方は日に日に強まり、得点稼ぎが焦眉の急だった。
当然のことだが、ホワイトハウスの焦りを米議会民主党も共有していた。上院常任調査小委員会は4月27日、金融危機の原因究明という名目で、ゴールドマンのブランクファイン最高経営責任者(CEO)らを招致。ケーブルテレビで生中継された公聴会は延々10時間半に及び、「ウォール街叩き」で国民人気の取り戻しを図った。
「9割反映」と胸張る大統領の厚顔
それから2カ月。米議会の両院協議会は6月25日早朝、ボルカー・ルールを部分的に盛り込んだ上院案と、2009年末に可決した下院案の摺り合わせを徹夜で終えた。オバマ大統領は両院の共同作業を讃えると同時に「政府の意向が9割反映された」と胸を張った。だが「9割」とはお笑い種だ。一本化された法案は、リスク投資禁止など肝心な条項の表現が弱められ、ウォール街の現状を追認する案に変貌を遂げていたからだ。
金融危機の再来を防ぐことはできるのか? AIGの経営危機を招いたCDSも、銀行本体での取り扱いが認められた〔AFPBB News〕
例えば、企業の破綻リスクに対する保険商品の「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」。米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が大規模に発行し、リーマン・ショック後の損失拡大で公的管理に追い込まれた代物だ。高リスクのデリバティブ(金融派生商品)取引の象徴だが、リスクヘッジ機能があるとして銀行本体での取り扱いが認められた。
CDSは相対取引が基本なため価格設定が不透明とされる。逆に言えば、顧客ニーズに合わせてCDSを組成できるノウハウを持つ金融大手にとってはうまみが大きい。今後は清算機関を通じて売買金額が白日の下にさらされるが、「元々オーダーメイドの商品だけに価格は標準化できない。公表されても適正なのかどうか判断できない」(大手証券)という状態が続く。

