ニッケイ新聞 2014年5月21日
エクアドル発=秋山郁美通信員:これは日本食か、はたまたペルー食なのか――。日本料理は世界中で流行しており、エクアドルでも例外ではない。在留邦人が少なく日本食材がなかなか手に入らない首都キト市内でも、ショッピングモールには必ずと言っていいほど、チェーン店NOEなどたくさんのスシ・バーがある。
中でも最近特に目立つのが「japones-peruano」店だ。そう日系ペルー料理レストランで、この2年で市内の目立つところだけでも3軒できた。その中でも最初に開店し、このたび改装して来月再開店する「MAKI」を取材した。
MAKIという名の通り、巻き寿司をメインとした日系ペルー料理レストランだ。メニューには「リマ・ロール」「キト・ロール」「ニッケイ・ロール」などの巻き寿司やペルーの郷土料理ロモ・サルタードなどが並び、中にはエクアドル風ティラディート(ペルー料理)もある。
料理長は日系ペルー人三世の玉城・小浜・金栄(きねい)さん(26)。彼は16歳からペルーの日系レストランで修業を積み、2年前にスカウトされて来た。
オーナーのミゲル・ブスティージョさんは「最初の頃は挨拶もしないし、何か頼むのにポルファボールも言わなかったんだ」と苦笑いする。それに対し、キネイさんは「ペルーのレストランはもっと忙しいから用件しか伝えない。こっちはもっとリラックスしているから、帰国したら僕は怠けていると思われる」と説明する。
同じスペイン語圏でも国境を越えると色々変わる。ペルーですでに一般的だった日系融合料理のメニューを、開店時はそのまま持ち込んだが、エクアドル人には受け入れられず、少しずつ味を変更したという。「エクアドル人は辛いのが苦手だから抑え目にしている。新しいものを試したがらない」とミゲルさん。
工夫はそれだけではない。日本人客があれば味付けを控えめにしたり、ペルー産とアメリカ産の米を混ぜて気圧の低いキト(標高2850メートル)でも寿司にちょうど良い粘り気になるように配合を研究している。
キネイさんの味の原点はオバアの作る料理だった。デカセギしていた両親に代わって、キネイさんは祖父母に育てられた。オバアは味噌汁や丼、沖縄風のお菓子をよく作ってくれたという。祖父母は、彼が10歳のときに立て続けに亡くなり、両親のいる三重県に移った。「屋台のラーメンはおいしかったなあ」とぼそり。
リマのラ・ビクトリア日系人学校にいたこともあって、言葉や文化に抵抗はなかったが、同級生の4割がラテン系だった。顔だけではわからないが、自己紹介で話すのを聞いて外国人だと分かると、日本人からのイジメが始まった。
でも、当時の逸話を話すキネイさんはどこか楽しそうだ。「僕はすぐブラジル人のグループに入って毎日のように日本人グループと対決した。喧嘩、喧嘩、喧嘩。おもちゃのピストルを落ち葉に隠して、いじめっこグループが来たときに一斉に打って勝ったんだ。それからは日本人とも仲良くなったよ」。
最後にキネイさんは「お薦めはアセビチャード(セビーチェソースの巻き寿司)だよ。エクアドル人向けに酸っぱさ控えめにしたからペルワノ・ハポネス・エクアトリアーノだ。ハハハ!」と味の“国境”を軽く飛び越えた。
(ニッケイ新聞・本紙記事の無断転載を禁じます。JBpressではニッケイ新聞の許可を得て転載しています)