ベン・バーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長の議会証言(7月21日)が話題を呼んでいる。特に「米国が日本のようなデフレに陥る心配はないか?」という質問への答えが注目された(C-SPANで2時間25分以降)。

 <米国と日本には、非常に重要な違いがあると思います。その一部は構造的なものです。最近の日本経済の生産性は比較的低く、労働人口も減っています。そのため潜在成長率は米国より低く、この点で活気の乏しい経済です。日本は非常に長期にわたって銀行システムに問題を抱えており、何年もその解決を放置してきました。>

 つまり、日本のデフレは構造問題によって生じているので、米国では同じことは起こらないと述べて、追加緩和に慎重な姿勢を見せたのだ。

 ポール・クルーグマン(プリンストン大学教授)は、こうした姿勢をブログ記事で、“Domo arigato, Bernanke-san”と皮肉っている。

 議長を日本語で「バーナンキさん」と呼んだのは、「日本の失敗を繰り返している」という意味だろうが、確かにバーナンキ議長の発言は日本銀行の白川方明総裁に似ている。

 これについて「かつて日銀を批判したバーナンキ議長の意見が変わった」という意見と「いや、変わっていない」という意見が飛び交っている。

デフレの原因は潜在成長率の低下

 しかし、クルーグマンが引用している2002年の講演を読むと、バーナンキ議長の意見はほとんど変わっていないことが分かる。その講演でバーナンキ議長は、「中央銀行が徹底的な金融緩和を行えばデフレは克服できる」とした上で、日本が長期にわたってデフレを克服できない原因は、過剰債務や不良債権などの「構造的な問題」だと述べている。

 つまり、デフレを防ぐには金融を緩和すればよいが、日本の場合にそれが効かないのは構造的な問題によるものだ、というのがバーナンキ議長の一貫した見解である。

 この見解は白川総裁とほとんど変わらない。白川総裁は、今年5月の講演をこう結んでいる。

 <日本経済の直面する最も重要な課題は潜在成長率の趨勢的な低下であり、この問題に正面から取り組む必要があります。いわゆるデフレの問題も、成長期待の低下というわが国経済が抱える根源的な問題の表れだと思っています。>

 つまりバーナンキ議長も白川総裁も、潜在成長率(長期的に維持できる成長率)の低下が日本経済の最大の問題であり、そういう構造問題を解決しない限り、中央銀行だけの力でデフレを解決することはできないと考えているのだ。