4月4日、日本人間ドック学会が150万人の調査結果に基づき「血圧147mmHg(ミリメートルエイチジー)は健康」とする報告書を公表しました。

 日本人間ドック学会が示す基準を端的に言うと、「血圧147を超えたら、まずは食事指導(塩分制限)と運動指導を行う。そして、医療が必要なのは“血圧160以上”」ということです。

 これまで、血圧130以上を“異常値”として指導・治療対象としてきたわけですから、医学会そして、実際通院中の方に与えた衝撃は想像に余りあります。これまで高血圧とされた方の実に75%は今回の基準変更で正常となるのです。週刊誌では「高血圧なんて気にしなくてよい」などの見出しで特集が組まれました。

 これに対し、日本医師会は「関係専門学会と事前の十分な検討・協議もないままに唐突に新たな値を公表したことは(中略)“拙速”と言わざるを得ない」とし、「長期的な疾病発生率を調べたものでないため(健康な人の血圧範囲を調べただけだから)エビデンスレベル(情報の信頼性)が高くはない」との声明を出しました。

 理想的には、血圧を130未満に保っていれば脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化に基づく疾患のリスクが減るというのは分かります。でも、3000万人を“高血圧”と診断してきたこれまでの基準が少し厳しすぎであった面も否めません。

ピロリ菌陰性でも胃がん検診が必要な理由

 以上は治療の線引きを血圧の数値だけで画一的に決めることの難しさを示した事例だと思います。実は、これは何も血圧に限ったことではありません。

 私の専門の胃腸科部門で言うと、ピロリ菌陰性の方に対して胃がん検診を行うのは「医療費の無駄遣いなのではないか?」という議論があります。

 胃がんというのは99%以上ヘリコバクターピロリ菌感染が原因であり、ピロリ菌陰性(未感染)の方の胃がんはほとんどありません。ですから、特殊な場合を除いて、ピロリ菌がいなければ胃がんにならないと言えます。