中国大陸からの訪日客が増えている。2014年3月は個人旅行や団体旅行で18万4200人の中国人が日本を訪れた。前年同月比で80.1%の増加である。日本政府観光局(JNTO)は、訪日旅行客数を押し上げた3大要因として、「桜の時期を狙った効果的なプロモーション」「上海発のクルーズの増加」「円安傾向によるショッピングの割安感」を挙げた。
だが、中国人が日本を選ぶ要因はこれだけではなかったようだ。4月下旬、北京から東京を訪れた1組の夫婦がいた。彼らは無類の日本ファンである。日本がらみのビジネスも抱えており、公私にわたり毎年日本を訪れることを楽しみにしている。この夫婦が今回の訪日中国人客の増加についてこう語った。
「今、日本に旅行する中国人がどんどん増えています。逆に言えば、日本しか行くところがないんです。マレーシアは航空機が失踪、韓国も船が沈没して印象が悪い。タイはデモで政情が不安定、フィリピンは領土問題がこじれているし、台湾は学生が立法院を占拠して大陸への感情が悪化している。今、中国人がアジアを旅行しようとしたら行先は日本しかないんです」
日本と中国は尖閣諸島問題で緊張が高まっているが、日本人は中国人旅行者を温かく歓待する。それが、中国からの訪日客が増加する一因ともなっている。
同時にそれは、中国人を取り巻くアジアの環境が変化してきていることの表れとも言える。アジアでは今、中国人が巻き込まれる物騒な事件が相次いでいるのだ。
拉致される中国人
中国とフィリピンは南沙諸島(スプラトリー諸島)の領有権をめぐり対立を激化させている。5月6日、その南沙諸島のハーフムーンショール(半月礁)付近で中国船1隻が拿捕された。フィリピン当局は「船上に500を超えるウミガメを発見した」とし、同国の「野生動物保護法」に違反した疑いで船を拿捕し、乗組員11人の身柄を拘束した。
また、同じ日にフィリピンの空港で、中国人女性がフィリピンの空港で殴られる事件が発生した。中国紙環球時報は次のように伝えている。
この中国人女性は5月4日にマニラのニノイ・アキノ国際空港に到着した。入国審査の際、複数の入国歴がありビザ延長のスタンプが多数押されていたことから、不法就労を疑われた。女性は「フィリピンで就労したことはあるが、今回は観光目的だ」と反論。だが、無理やり強制送還者用の待合室に連行された。その後、この部屋を出ようとしたところフィリピン人職員に足で踏みつけられるなどした。さらに取っ組み合いのけんかにまで発展したという。