経営力がまぶしい日本の市町村50選(26)

 大合併を選択しながら改革に向かってまっしぐらに走り成果を生んでいる東近江市。その取り組みは霞が関からも成功事例として注目を集めている。今回はそれらの事例をいくつかご紹介しよう。

 なかでも注文が多すぎて生産が全く間に合っていない薪ストーブなどは極めてユニークなだけでなく、日本が眠る森林資源を活用することを考えたときに、非常に面白い展開が期待できるのではないかと思う。

 暖炉とは冬が厳しい欧米のものと考えがちだが、日本でもその効用は大きい。核家族が進んでしまったいま、子供が大きくなると家族一緒に団らんというシーンは過去のものになりつつある。しかし、暖炉があると違うのだ。

 ぽかぽかと暖かい暖炉のそばに自然と家族が集まりたくなる。そこから会話が生まれ、家族の絆を育む。そんな効用もある。東近江市の取り組み・後編をどうぞ。

環境省が「福祉モール」に注目する理由

川嶋 前篇で紹介したのは、市民活動の「見える化」や「100人の飲み会」が分野を超えた連携を生み、まちづくりが活性化しているというお話しでした。この東近江市の多分野連携は、厚労省や林野庁、環境省から関心を持たれているということですね。

山口 「あいとうふくしモール」という多分野連携の事業があります。これは、病気になっても、年を取っても、障害があっても、安心して暮らせる地域をつくることを目指し、障害者施設と高齢者施設、農家レストランが連携して1カ所に集まってできたものです。

障害者施設、高齢者施設、農家レストランが連携した「あいとうふくしモール」

 あいとうふくしモールは、厚労省はもちろんですが、環境省も非常に関心を示しています。というのも、このモールには食とケアの充実に加えてエネルギーの自立で安心を提供するという発想があり、屋根には太陽光パネルを設置し、暖房は薪ストーブを使っています。

 つまり、自分たちはCO2(二酸化炭素)を減らそうと思っているわけではないですが、安心できる暮らしが自然に低炭素につながっているというわけです。環境省の方もここに来られて、そういうことに感心されていました。いとも簡単にできてしまうと。

 環境省は低炭素のまちづくりを全国で進めていますが、CO2を減らしてくださいと言っても、なかなか進まないため頭を抱えておられる。私たちは、それは当然ですよと話しています。

 地域住民からすれば、単にCO2を減らせと言われても、直接的なメリットがなければやろうという気にはならない。でも、CO2を減らす生活が自分たちの暮らしの安心や安全につながるのであれば当然やります。

川嶋 お上の旗振りは住民には響かないと。

山口 大都市の場合は分かりませんが、田舎では安心安全な暮らしを実現しようと思ったら、結果的に低炭素になる。CO2を減らしましょうなどと言わなくてもCO2は減るんです。CO2を減らすために薪ストーブを置くわけではありませんからね。