東日本大震災の後に流行したけれども最近は聞かれなくなった言葉に、「想定外」という単語があります。

 当時「想定外」は2つの用いられ方をしました。1つ目は本来の意味のとおりで、社会が全く想像を巡らしていなかったことに対して。もう1つは社会が薄々想定はしていたが、あえて蓋をしていたことに対して、です。

 後者に対し想定外という単語が乱用されたことにより、想定外という言葉自身が無責任の代名詞のようになってしまいました。

 その結果、従来の想定外、すなわち社会の想像力不足によって生じた被害、についてもまた、語られなくなってしまいました。

 そして残念ながら、社会の関心がない、あるいは社会でタブー視されている問題については、今でも「想定外」の枠は広がっていません。その1つが以前書かせていただいた、原発作業員の問題*1です。今回はもう少し身近な問題、「男女差」について述べてみようと思います。

HOHPプロジェクト

 南相馬市立病院の在宅診療部は、仮設住宅の住民を対象にユニークな取り組みをしています。その名も「引きこもり(H)お父さん(O)引き寄せ(H)プロジェクト(P)」通称HOHP(ホープ)。職を失い、家を失って仮設住宅に引きこもる働き盛りの男性を社会へ引っぱり出そう、という試みで始められたプロジェクトです。

 その代表的な活動が、市内の工務店や塗装屋さんと協力して行われる「男の木工教室」です*2。参加者は主に中高年の男性で、本職による毎週の指導の下、本格的な家具を作られる方もいるようです。なぜ材料費も手間もかかる「木工教室」だったのでしょうか。

 「男性は女性と違って目的がないと集まれないからねえ」

 こうコメントされたのは、企画者の1人である南相馬のK医師です。

 確かに仮設住宅の集会所を見ても、井戸端会議に花を咲かせているのは圧倒的に女性です。もちろん男性が外に働きに出ているから、という側面もあるとは思います。しかし避難されている後期高齢者の約半数が男性であることを考えれば、やはり目的のない集会には男性は参加しづらい、という傾向があるのかもしれません。

 「健康教室、とか、こちらが一方的に教えるのもダメかな。女性は聞くだけでも参加するけど、男性は役割がないと行こうと思わないから」

 このように眺めてみると、目的や生産性がないとなかなか外に出られない、「男性目線」の長期支援は、支援の盲点とも言えるのかもしれません。