ドイツニュースダイジェスト 21 Februar 2014 Nr.972

 ストリートペーパー(ドイツ語でStrasenmagazin)をご存じだろうか。それは、ホームレスに路上での販売を委ねることで彼らの仕事を創出して自立を支援し、ホームレス問題を世に喚起する意味を持つ雑誌や新聞のこと。

 販売価格の半分以上が販売者の現金収益になるという仕組みだ。ストリートペーパーそのものの存在を知らなくても、路上で販売者の姿を見掛けたことがあるという人は多いのではないだろうか。

 世界で初めてストリートペーパーのビジネスモデルが誕生したのは1991年。英ロンドンでの「ビッグイシュー」だ。以後、その波は世界中に広がり、日本でも2003年に「ビッグイシュー日本版」が創刊された。

 ドイツでは、ある程度の規模以 上の都市には必ずと言って良いほど「ご当地ストリートペーパー」があり、一般紙さながらに豊かな地域色と個性を押し出している。

 ドイツを代表する2誌のストリートペーパーが創刊されたのは1993年。10月にミュンヘンの「BISS」、続く11月にハンブルクで「Hinz&Kunzt」が産声を上げた。ストリートペーパーの誕生はまさに、ドイツでは1990年の東西統一の熱狂が冷め、酷な現実を突き付けられていた頃、世界的には経済のグローバル化の波が加速した時代と一致する。

 急激な社会の変化に伴って底辺に追いやられた人たちの姿は、私たちが生きる現代社会の1つの象徴でもある。ストリートペーパーは、そこから目を背けるのではなく、光を当てることで問題と向き合い、共生の道を探ろうとする試みなのだ。 ここでは、ドイツのストリートペーパー5誌を通して、その現状と取り組みを紹介したい。 

(取材・文:見市 知)

ストリートペーパーの名前が語る「ホームレス」

 ストリートペーパー販売の担い手となる「ホームレス」と呼ばれる人々は、一体誰なのか。それは、いくつかのストリートペーパーの名前がいみじくも示している。

 例えばミュンヘンの「BISS」は、「社会的困難の中にある市民(Burger in Sozialen Schwierigkeiten)」の頭文字。ハンブルクの「Hinz& Kunzt」は「Hinz und Kunz =どこにでもいる人」という慣用句からきている。そのクンツに「芸術(Kunst)」を掛けて、「Lebenskunstler=生き抜く術を知っている人」という意味も込められている。