安倍晋三首相は、2014年1月の施政方針演説で「原子力規制委員会が定めた世界で最も厳しい水準の安全規制を満たさない限り、原発の再稼働はありません」と述べた。これについて菅直人元首相は「新規制基準に適合するときにのみ再稼働を認可することができるという理解でいいのか」という質問主意書を出した。

 これに対して内閣は21日、「規制委員会は原子炉の規制を行っているが、再稼働を認可する規定はない」という答弁書を閣議決定した。「再稼働の審査」という手続きは存在しないのだ。

 しかし規制委員会に再稼働を認可する権限がないのなら、安倍首相はなぜ「再稼働はありません」と断言したのか。再稼働はだれが認可するのだろうか?

適法に動いている原発を「空気」で止めた

 実は、再稼働を認可する必要はない。今の原発には停止命令は出ていないので、定期検査の最後に出力100%で運転する「使用前検査」を行えば、そのまま送電できる。電力会社が規制委員会にその申請を行えば、委員会は検査しなければならない。

 原発が今のような状態になったのは、2011年5月6日に菅直人首相(当時)が中部電力の浜岡原発の停止を「要請」したことがきっかけだ。浜岡は適法に動いているので停止命令は出せないというのが経済産業省の見解だったため、菅氏は「個人的お願い」という形を取り、中部電力がそれを受け入れた。

 その後も定期検査を終えた原発が、「空気」で動かせなくなった。民主党政権が法に定めのない「ストレステスト」を要求したので、電力会社は31の原発でストレステストを行ない、2012年初めに第1次評価報告書を原子力安全・保安院に提出したが、保安院はそのうち大飯3・4号機と伊方だけを原子力安全委員会に送付し、安全委員会は大飯だけを合格とした。

 ストレステストに合格した原発は福島第一原発と同じ条件のシミュレーションに合格し、いつでも動かせるのだが、新しく発足した規制委員会が「ストレステストには法的根拠がない」として白紙に戻してしまった。では委員会は、どういう法的根拠で原発を止めているのだろうか?