1979年にメルトダウン事故を起こしたスリーマイル島原発(アメリカ・ペンシルベニア州)周辺での現地取材報告を続ける。

 今回は、TMI原発事故の健康被害を20年間追跡調査しているピッツバーグ大学公衆衛生大学院の疫学者、エブリン・タルボット教授のインタビューをお届けする。ピッツバーグ大学は、原発事故直後にペンシルベニア州政府が集めた原発から5マイル(8キロ)内に住んでいた住民3万2000人のデータをそのまま引き継ぎ、20年間追跡調査している。

 これまでコロンビア大学とノースカロライナ州立大学の疫学調査の結果を報告してきた。コロンビア大学調査は、病院に保存されていた原発周辺住民の事故以前の病歴データと、事故後の病歴データを比較して、放射能プルームの流れた方向とがんの発生の因果関係を調べたものだった。「健康被害あり・原発事故との因果関係なし」と結論を出した。ノースカロライナ大学は1990年に同じ元データを再検証し「健康被害あり・原発事故との因果関係あり」と正反対の結論を出した。

 病院データを元にした2つの調査に比べると、ピッツバーグ大学調査は住民そのものを20年間追跡しているところに大きな特徴がある。また事故直後には州政府が「放射性物質の放出はあっても少量で、健康被害はない」との見解を打ち出し、住民から反発を受けたことを考え合わせると、そのデータを引き継いだピッツバーグ大学が34年後にどのような結論を出しているのか注目に値する。

フクシマとTMI事故の発がんリスクはどちらが高いのか

 ピッツバーグはペンシルベニア州西部の都市だ。鉄鋼業など全米有数の重工業の中心地として長い歴史を持っている。世界最初の原子力潜水艦「ノーチラス」のエンジン原子炉を造り、その後も原子炉メーカーの2大巨頭の1つ(片方はジェネラル・エレクトリック)だった「ウエスティングハウス」社は1886年にピッツバーグで創業された。

 ピッツバーグ大学は私立大学だが、ペンシルベニア州政府の公的研究の委託を多数受ける州立大学的な側面を持っている。スリーマイル島原発事故の疫学研究が行われているのも、こうした流れにある。臓器移植、ポリオワクチンの開発、ビタミンCの発見など、医学研究では世界でも有数の実績を持っている。

 タルボット教授は、地元ペンシルベニア州出身。自宅近くのキャノンズバーグにウラン精製工場跡があり、1950年代まで稼働していた。その土壌にウランの精製屑が廃棄され放射能汚染されていた。そこで発生した健康被害を調査し、肺がんなどの発生がほかの地域よりはるかに高いことを明らかにしたのが、1982年に書いた博士号論文だった。