タイの反政府デモは、インラック首相退陣、国の“創造的破壊”を唱えた「タクシノクラシー」を推進したタクシン元首相派政権打倒を掲げ、元副首相で反タクシン派野党民主党のステープ・トウアクスパン氏が主導してきた。

　副首相という一見、首相（トップ）の最大の理解者、右腕、側近と見られるナンバーツー、いわゆる“女房”が政変を起こし、“亭主”に反旗を翻しクーデターを勃発させるケースは、どこの世界も同じ。

マレーシア元副首相の入国拒否がジャパンバッシングに発展

　タイのこの女房役による大反撃が世界的に報道される中、アジアのもう1人の元副首相にまつわる騒動が、政治的陰謀説や日の丸炎上を巻き起こし、その深層究明で波紋を呼んでいる。

　ことの発端は、マレーシアで一時「ポスト・マハティール」と目されていたマハティール元首相の元右腕、アンワル・イブラヒム元副首相が、笹川平和財団招聘による講演等で来日のため1月19日成田空港に到着したが、日本の入管当局から入国を拒否され、同日マレーシアへ帰還した問題。

アジアのカリスマ指導者、マレーシアのアンワル元副首相。名演説家で知られ、演説会場はロックライブさながら、会場を熱気と活気に包み込む政界の“ロックスター”（写真提供：筆者、以下同）
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　日本では知名度は低いが、アンワル元副首相は野党連合の指導者で、昨年5月の総選挙では独立後初となる約60年ぶりの政権交代を図った中心人物。アジアではカリスマ指導者として広く知られる（本コラムで昨年7月、3回にわたり連載した記事参照：第1回、第2回、第3回）。

　昨年の総選挙では、その野党連合が得票率51％を獲得したにもかかわず（与党は47％）、選挙結果を与党に有利に展開させる「ゲリマンダー選挙制度（小選挙区制）」により、結果的には与党が国会の議席数60％を奪取し、政権を維持した。

　しかし、民意は政権交代を望んでいただけに、選挙結果を不当に操作する選挙制度や、汚職・不正疑惑が絶えない現政権への批判は、人種を超え、特に若年層の間で支持を広げており、次期総選挙で野党連合が政権を奪取する可能性も否定できない。

　1月に日本政府により入国拒否されたアンワル元副首相は、2006年から2012年まで数回来日しているが、「何の問題もなく入国した」と主張し、「日本政府の不当な措置に抗議する」と声明を発表。