例えば11月の、太陽も照らない、風も吹かない日の太陽と風による発電量は、総容量6万メガワットのうち、2500メガワットにも満たないという。足りない分は、現在は原発と火力で賄っているが、原発が廃止された暁には、火力しかない。
つまり、再生可能エネルギーがお天気任せである以上、それがいくら増えても、バックアップの火力発電所は、絶対に停止できない。
本来なら、火力発電所は、消費の動向を見ながら、細かに発電量を調整していく。バックアップの電源は普通3種類あって、季節間の大きな電力消費量の変動や一日の間の変動に応じて、計画的、合理的に発電する。
さらに、雲が出るとか、風が止むという事情で絶えず変化する自然エネルギー由来の発電量の増減にも、機敏に対応し、バックアップする。
しかし、現在、火力発電所は、計画的、合理的に発電をすることができない。現在のドイツの電力供給は、需要と何の関係もない。どれだけ発電するかは、太陽と風が決めている。
太陽が照り、風が吹けば、電気は際限なく作られる。そして、送電会社がすべてを買い取る。その分は消費者が負担する。信じられない仕組みだ。元来は、補助的立場にあるはずだった再生可能エネルギーが、いつの間にか独裁的立場に納まってしまった。
ただ、電力会社は、このような、いつ必要になるかも分からない火力発電所を維持していくほど酔狂ではない。投資どころか、徐々に撤退していきたいところだが、撤退されては停電が起こる。そこで、国が補助を出して、撤退しないよう、なだめなければならない。
つまり、ドイツは、再生可能エネルギーにものすごい補助金を費やし(これは、前述のように国民負担)、しかし同時に、火力発電にも膨大な補助金を費やさなければいけない。
そのうえ、北海とバルト海の海上の風力発電の開発経費、送電線設置の経費、これらも、消費者の電気代の上に、どんどん乗せられている。ドイツの電気代は、すでにEUの中で、デンマークに次いで高い。
夢物語でない脱原発への仕切り直しが急務
この矛盾に気づいたドイツ人は、今、世界中で物笑いになるのではないかと心配し始めている。勇ましいことを言っている人は、緑の党以外には、もう、あまりいない。
実は、CDU(キリスト教民主同盟)は、前政権のころから、この矛盾を修正しようと必死になっていたが、野党の言いがかりで、何もできなかった。ところが、去年12月、CDUとSPD(ドイツ社民党)の大連立が成立して以来、SPDが今まで反対していた様々な案を、あたかも自分たちのアイデアのように玉手箱から取り出し、実行するもようだ。