1979年にメルトダウン事故を起こしたアメリカ・ペンシルベニア州のスリーマイル島(TMI)原発周辺での現地取材の報告を続ける。

 今回から数回に分けて、TMI原発周辺の住民の健康被害を調査し、事故との因果関係を分析した疫学者たちのインタビューを掲載する。福島第一原発と同じようなメルトダウン事故を起こし、周辺住民の上に放射性物質が飛散したTMI原発では、住民たちの健康の追跡調査が長期間行われ、事故後10年以上経った1990年代以後、複数の大学グループの結果が公表された。原発事故との因果関係も分析された。その経緯や結果は福島第一原子力発電所事故の未来像を考える上で示唆に富んでいる。

 その結論(健康被害の有無・原発事故との因果関係の有無)をざっぱくにまとめるとこうなる。

・コロンビア大学=健康被害あり、因果関係なし

・ノースカロライナ大学=健康被害あり、因果関係あり

・ピッツバーグ大学=健康被害あり、因果関係の結論にはまだ時間が必要

 今回はノースカロライナ大学公衆衛生学大学院疫学部のスティーブ・ウィング教授のインビューを報告する。ウィング教授は、先に「健康被害あり、因果関係なし」と公表したコロンビア大学の報告を再調査した。コロンビア大学が使った同じデータを再検証して、その内容を批判した。そして「健康被害あり、因果関係あり」という結論を出した。

「訴訟を助けてほしい」と住民が依頼

 ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill。以下、UNC)は、1789年に開校した全米で一番古い公立大学だ。71の学部・プログラムがあり、修士・博士課程を含めると約2万7000人の学生が在籍する。理系、中でも医学・薬学系が強く「USニューズ&ワールド・レポート」誌の全米大学ランキングではメディカルスクールやウィング教授の在籍する“School of Public Health”(公衆衛生大学院)は全米2位に位置している(2008年)。