北朝鮮の潜水艇が放ったとされる魚雷が、たった1発で韓国の哨戒艦を真っ二つに裂き、沈没させた事件を覚えていると思います。なぜ北朝鮮は、最新鋭のミサイルではなく魚雷を使ったのでしょうか。北朝鮮が魚雷のような古い技術しか持っていないからではありません。

 近年、日本の周辺国では潜水艦の建造ブームが続いています。その潜水艦にとって重要な兵器は対艦・対地・対空ミサイルなどと並んで重要なのが実は魚雷なのです。この兵器には派手さはありませんが、破壊力と隠密性は抜群です。

1.魚雷とは何か

 海の防衛を考えた時、魚雷について触れないわけにはいきません。そこで、魚雷とはどんな兵器なのか、現在の魚雷はどのようなパワーと限界を持つのかを解説してみたいと思います。

 まず「魚雷」の語源は、「魚形水雷」が略されたものと言われています。

 「水雷」は元来、陸軍の「地雷」を海の作戦に適用することを目途に開発されたもので、いずれも欧米ではmineと呼称されています。

 水雷は、固定型の「機械水雷」が現在の「機雷」に進化し、自走型の「魚形水雷」が「魚雷」として枝分かれし進化したものです。

 前者は従来のmineの呼称が踏襲され、後者はTorpedo(語源は「しびれえい」)と呼称されるに至りました。『海軍水雷史』(昭和54(1979)年3月20日 財団法人水交会内「海軍水雷史刊行会」発刊)では、魚雷を次の通り定義しています。

 魚雷とは、その形状は概ね葉巻型の水中航走体であって、自体内に原動力および主機械を有し、最後部には推進器を備え、水面下所定の深度を保ちつつ定められた方向に自力直進し、敵艦の吃水線下の舷側もしくは艦底直下に達し、その頭部に持っている炸薬を爆発させ、以って敵艦の舷側もしくは艦底を破壊する水中兵器である。

 この定義にあるように、魚雷は元来、対水上艦艇用の攻撃武器として進化してきたものですが、海上作戦への潜水艦の参入により大きくその存在意義の転換を迫られることとなります。

 それは、水雷戦隊(水上艦艇)あるいは艦載機による敵水上部隊への魚雷攻撃は、その射程の制約から敵部隊へ肉薄するリスクを負わざるを得ず、隠密性に優れる潜水艦にその主役の座を譲る事態を招来させました。