1979年にメルトダウン事故を起こしたアメリカ・ペンシルベニア州のスリーマイル島(TMI)原発からの現地報告を続ける。今回から数回にわけて、周辺住民の健康への影響について調査した疫学調査について述べる。事故から35年が経過したTMI原発事故では、調査も複数回行われ、その結論がほぼ出そろっている。原発事故で周辺住民が被曝した事故は人類史上TMI、チェルノブイリと福島第一の3回しか起きていない。その経過や内容は福島第一原発事故の未来を予測するのに極めて数少ない先例として参考になる。

 結論を先に箇条書きにしておく。

(1)最も早く短期調査をしたペンシルベニア州政府・連邦例府は「健康被害はあってもごくわずかで、有意の範囲ではない」と結論を出した。

(2)ボランティアの個別訪問調査や生活実感から、住民たちはこの結果に納得しなかった。

(3)事故で原発から放出された放射性物質の総量をどう定義するかも見解が分かれた。

(4)1990年代になって長期調査の結果が公表されるようになった。

(5)コロンビア大学の調査はがんなどの増加を指摘しつつ「有意の影響は見つからなかった」とした。

(6)ノースカロライナ大学の調査はコロンビア大学のデータを再検討して批判し「放射性雲(プルーム)の流れた方向と健康被害は関連がある」と結論づけた。

(7)ピッツバーグ大学の調査はがんなどの増加を指摘したが「結論にはまだ経過観察が必要」と結論づけた。

 筆者は6、7の調査責任者に直接面談してインタビューした。スケジュールの都合でコロンビア大学の調査責任者には面会することができなかった。