難産の末に誕生した第3次メルケル政権が、新年明けてようやく稼働し始めた。新内閣の抱えた問題、および課題については、昨年12月25日にざっと書いたが、中でも一番困難な問題は、エネルギー政策、つまり、脱原発の遂行である。
産業・エネルギー省の新大臣は、SPD(社会民主党)の党首であるガブリエル氏。氏は、今回のCDU(キリスト教民主同盟)との大連立協議で、敗者SPDにとっては余りある豊穣の実りをもたらした政治家だ。
しかし、その手腕は、鮮やかというよりも、相手の弱みに付け込んだ強引さを感じる。政界は、弱肉強食の世界である。そのガブリエル氏、新内閣では、産業・エネルギー大臣のほかに、副首相も兼ねている。
産業省と環境省の利害衝突で行き詰まった脱原発
ガブリエル氏のSPDは、40年も前から、緑の党と共に脱原発を叫んできた党だ。現在のドイツのエネルギー政策の骨子となっている再生可能エネルギー法(EEG)も、2000年、SPDと緑の党の連立政権下で誕生した。
そして、彼らの長年の夢がかなって、2011年、福島の事故のあと、ドイツは脱原発を決めた。2022年までにすべての原発を止めるということが決まったのだった。そして、それから2年半以上が経ったが、脱原発の進捗具合は、亀の歩みのごとく鈍い。
そこで、去年の暮れの29日、ガブリエル大臣が近未来の計画を発表。それによると、これまでのエネルギー政策は酷い状況で、ほとんど無政府状態であった。よって、これより彼が、その仕切り直しに着手するらしい。
仕切り直しとは、SPDの誇りであった再生可能エネルギー法の見直しである。そこには、かつてのドイツ人の自慢の種、全量固定価格買取制度の見直しも含まれる。
再生可能エネルギーで電気を生産すれば、20年間にわたって固定価格で全量を買い取ってもらえるという、投資家にとっては夢のような制度だ。ただ、財源がないため、買い取りに掛かる費用は一般消費者の電気代に乗せた無責任な制度でもある。
この制度が、破綻しかけているのは、すでに周知の事実だ。高い買い取り価格も、20年間の支払い期間も、非現実であるとして非難の的になっている。しかし、日本の環境保護者たちはいまだに称賛しており、経産省も、最近になってこの制度を取り入れている。財源の確保は万全なのであろうか?
以前、ドイツのエネルギー政策は、概ね産業省に委ねられていた。環境省の発言が強くなったのは、脱原発の決定からだ。それによって、エネルギー問題は、産業省と環境省が、その管轄を巡って激しい綱引きをするようになった。
環境保護を重視する政策は、かならずや産業界の利害と衝突する。ドイツの産業界を弁護するなら、彼らはこれまで様々な技術を導入して、排ガスや汚水の清浄化には大いに投資し、環境保全に努めてきた。
ただ、それを、国際競争力を落とすほどにまで進めることはできない。政府サイドとしても同じことで、環境保全のために、産業国ドイツの産業基盤を脅かすような政策を打つことは許されない。永遠のジレンマである。