海外で日本の文化がいろいろと注目されている中、ヨーロッパ人で書道の達人はいないだろうかと探していた。筆の運び、墨の濃淡が描き出す書というアートで、私たち日本人を感銘させるような人を。それがフランス人のマンダ女史だった。
「ただ好きだから続けているんです。趣味の範囲をちょっと超えた活動ですよ。画家をしていたころの貯蓄があるし、いまは年金生活ですから余裕をもって作品に取り組める。私はとてもラッキーだと思いますね」
そう語る彼女は、墨で俳句を書き墨絵を添える俳画が得意だ。上の言葉通り、自身の作品をとにかく売りたいという欲はない。書や墨絵をフランス人たちに教えることに関しても、焦りはなく気長に取り組んでいる。
「フランス人は普通、白い紙に描かれた墨は単なる黒い色だと思ってしまうんです。描く人の魂の表現だということがなかなか理解できません。それを、とにかく繰り返し教えています」
マンダ女史がどのように書を学んだのか、フランスで書はどういうふうに受け止められているのか。そんな話を聞いてみようと、ドイツとの国境沿い、ワインの産地として知られるアルザス地方に住むマンダ女史の自宅を訪ねた。
書のルーツ中国で認められるほどの腕前
彼女の書と墨絵を見たとき、「すごい!」という以外の言葉が出なかった。とりわけ、西洋の人が書く墨の文字は、日本人が馴染んでいる書とはどことなく印象が違うことが多い。
筆者の個人的な経験では、どんなに上手い人であっても「上手なのだけれど、なんだか、しっくりこない。心に響いてこない」ということばかりだった。
でもマンダ女史の作品は違う。ものすごく和風で、スーッと心にしみいる。「私の作品には、わびさびの心がよく表れているからではないでしょうか」
マンダ女史は自分の作品をそう分析する。
筆者の印象は、決して独りよがりではない。というのも、2012年、マンダ女史は松と鶴の雪景色の墨絵で、中国で栄誉ある賞をもらったからだ。世界に支部をもって活動する国際中国書法国画家協会(ICCPS)の国際展覧会で、中国分会名誉会長賞を受賞したのだ。とはいえ、受賞についてかなり謙遜する。