西安を10月下旬に訪問した時のことである。朝9時、宿泊先のホテルから午前中の面談相手の場所に向かおうとした。しかし、15分待ってもタクシーがつかまりそうな気配がなく、あいにくホテルの車も全て別の予約が入っていて借りることができなかった。

大人は誰も尖閣問題を心配していない

 そこで急遽、現地の旅行業者の車を手配したところ、真新しいホンダのアコードが現れた。その旅行業者兼運転手によれば、2カ月前に新車を購入したばかりとのこと。

 そこで、「昨年9月の尖閣問題以降、反日感情を持つ人たちによって多くの日本車が傷つけられたが、今はそういう心配はないのか」と質問すると、「いまだにそんなことを心配しているのは毎日ネットばかり見ている大学生くらいで、大人は誰もそんなことは心配していない」との答えが返ってきた。

 朝からいきなりタクシーがつかまらずに焦ったが、そのおかげでいい話が聞けた。

 上海以南の沿海部にある都市では元々政経分離の考え方が染み付いていて、日中関係の悪化が経済活動に及ぼす影響は小さい。しかし、内陸部の地方都市は政治を重視する北京の影響を比較的受けやすい傾向がある。

 西安は青島、長沙ほどではなかったにせよ、昨年9月の反日暴動をコントロールできずに破壊行為による被害が生じた、いくつかの都市の1つでもある。その西安でもここまで回復したのかと実感させられた出来事だった。

経済面の交流はますます加速している

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10月にインドネシア・バリ島で開催されたAPEC首脳会議での習近平国家主席〔AFPBB News

 しかし、日中関係を見ると、政治・外交面では今も膠着状態が続いている。一方、経済面は、昨年12月頃以降、多くの業種において、日本企業の業績が尖閣問題発生前の状態にまで回復していた。

 その後もなお深刻な影響が残ったのは、土木・重電・大型医療機器など中央・地方の官公需に関係する業種、自動車、観光産業など、ごく限られた一部の業種だけだった。

 3月に習近平政権が発足すると、さらに状況が改善した。自動車販売は4月以降、ほぼ前年並みの水準を回復。6月末以降、日本企業の官公需関係の入札への参加が可能となった。7月になると、中国地場の旅行会社の日本ツアーが復活し、京都、富士山、東京等では昨秋以降途絶えていた中国人団体観光客が戻ってきた。

 それらの動きと並行して、多くの地方政府が日本企業に対する誘致活動を強化し始めた。特に10月以降は夏場に比べて一段と積極化しており、中国各地の地方政府の投資誘致ミッションが日本の主要都市を続々と訪問している。