市川克明さんはドイツ中央部の都市ハレを中心に活躍するホルン奏者、音楽学者、そして指揮者です。今回は市川さんとご一緒しての、作曲家ヴァーグナーが建設した「バイロイト祝祭劇場」でのプロジェクトをご紹介してみましょう。
今回の成果も11月16日聖アンデレ教会、11月30日・12月1日の慶応義塾大学での東京アートオペラ「トリスタンとイゾルデ」全幕上演に有機的に生かされています。本当の「結論」はぜひ実演でお聴きいただきたいと思いますが、ここでは背景となる地道な基礎のお話をご紹介したいと思います。
革命という伝統:ハレ=ヴィッテンベルク
まず最初に、この秋冬のシーズン、市川さんが日本に帰国して開かれる演奏会をご紹介しておきましょう。
2013年12月14日、忠臣蔵の討ち入りの日ですがそれは関係ないですね、福岡県福岡市のFFGホール(旧福岡銀行ホール)で、市川さんが指揮されるヘンデル「メサイア」の公演があります。
土曜日の午後3時からスタートするコンサート、福岡近隣にお住まいの皆さんには、ぜひお勧めいたします。
と言うのもこの公演、市川さんが率いるのはハレ大学の室内管弦楽団、このハレという町は何を隠そうヘンデルの生まれ故郷、本当の伝統を受け継ぐ人々による「メサイア」が、日本の音楽家の指導の下、ドイツでも、日本でも演奏されている。そういう空気にぜひ、触れていただきたいと思うのです。
市川さんご自身も学ばれたこのハレ大学、実は「マルチン・ルター大学ハレ=ヴィッテンベルク」というのが本当の名前で、何となく察しがつくかと思いますが、宗教改革の突破口を開いたルターが教授として在籍し「95か条の論題」を掲げてカトリックに叛旗を翻した、その大学の現在の姿にほかなりません。
宗教改革は教会のあらゆるものを変革しました。教会建築、典礼、人事や経済的な問題、そして礼拝に用いる音楽もまた、因習的な繰り返しに疑問の目を向け、根底的に新しい音楽の可能性(それを「発見」することは「堕落したカトリック」が見落としている造物主の祝福の真の姿に触れる、より高い価値を持つものと考えられたようです)が追求されました。
ハレで生まれたヘンデル、また同じ年にほど近いアイゼナハで生まれ、やはりほど近いライプチヒで活躍したヨハン・セバスチャン・バッハ。
かつてバッハは「音楽の父」、ヘンデルは「音楽の母」などと(なぜか男性なのに)呼ばれ、多くの変革を通じて新しい音楽の基礎(あえて言うなら「平均律的ポリフォニー」)を建設しました。