スウェーデンの第2都市ヨーテボリの公立美術館で、「私たちはロマ――伝説の背後の人々に会う」が開催されている。催しに対する市民の関心が高いため、同館は週に1日、開館時間を夜8時まで延長して対応している。
ほぼ連日、先生に引率された多くの小・中学生がぞろぞろと中に入っていっているようだ。私が行った時も、たくさんの小学生が展示された写真やビデオに見入り、館員の説明を聞いていた。
ヨーテボリ・コミューンの一大プロジェクト
これは、ヨーテボリの職員が数カ月がかりで同市内に住むロマの人々数百人にインタビューして彼ら個々の素顔を写真に収め、半生を聞き取って文章にしていったという一大プロジェクトだ。
「伝説の背後の人々」という形容は、言い得て妙であると思う。欧州においてロマは至る所にいるので、特に珍しい人たちというわけではないのだが、しかし一般の人にとっては「異質・異教徒・異端」、つまり「得体の知れない、理解できない人たち」であり、「地域の秩序を乱すもの」と見られている。
ロマとは、かつてジプシーと呼ばれていた人たちであり、欧州内で数百年、数千年にわたって住む地を追われ、差別され、迫害され続けてきた民族だ。そしてこの受難の歴史は、現在いっそう過酷な形態を取りながら依然として続いている。
この連載で時々、「北欧では路上の物乞いが増えている」ということを書いてきたが、その多くはルーマニア、ブルガリア、そして旧ユーゴスラビアから貧困と差別を逃れてきたロマだ。
スウェーデンに来て住居を得、一般市民と同様に学校へ行き、職を得ているロマも多いが、最近は路上で物乞いをしたり売春行為を行ったりするロマが激増した。
そして最近筆者自身が悟ったのは、北欧にこの1~2年非常な勢いで彼らが流入してきたのは、もちろん欧州全体の不況といった経済的な要因が大きく影響しているからだが、もっと直接的な原因は、欧州の他の国々ではすさまじい勢いで彼らの住居が破壊され国外に追放されているからだということだ。
クロアチアやセルビアの路上から消えた物乞い
このことを、夏に旧ユーゴ国であるセルビアとクロアチアに行った時に確信した。以前は路上にあふれていた物乞いが、今年は一人残らずいなくなっていたのだ。
クロアチア人の義母は「欧州連合(EU)に加盟して、クロアチアにはロマがいなくなったのねえー」とあっけらかんと言っていたが、彼らは「いなくなった」あるいは「生活が良くなり、物乞いをする必要がなくなった」というわけでは全くなく、今までいた場から「強制的に立ち退かされた」というのが実情だろう。