被災地をワインで再生する。そんな大きな夢を描いて、東北でワインづくりに挑戦する青年がいる。

 岩手県大船渡市出身の及川武宏さん(34)。震災後から働いていた震災復興のための公益法人を辞め、埼玉県川口市にある自宅も引き払い、家族で大船渡市に移ることを決めた。

 大学を卒業後、東京でサラリーマンをしながら、いつか故郷で起業したいと思っていた及川さんにとって、転機は東日本大震災だった。東京で物資を集め、故郷に運ぶ支援活動をしたのち、被災地の復興を手助けできないかと考えて、公益財団法人東日本大震災復興支援財団で働くことになった。「自分にも子どもがいたので、被災地のこどもたちを支援する財団で働こうと思った」という。この財団は、ソフトバンクの創業者、孫正義さんが私財を出して立ち上げた財団だ。そこで、被災地の高校生を対象にした学資支援事業や、ジュニアスポーツの向上をはかる事業などを担当してきた。

三陸海岸の気候はワインづくりに適している

 その一方で、被災地を復興させる産業はないかと考えるうち、ワインづくりにたどり着いた。「外国人が訪ねてくるような海外発信のできる産物は何かと考えたら、ワインという答えが出てきた。高校まで東北で育ち、世界を見る視野は狭かった。世界で戦えるワインをつくったら、世界の人々が東北を訪れ、自分の子どもたちの世界を見る視野も広がると思う」と語る。

 ワインづくりに傾いたのは、2005年から2006年にかけてニュージーランドのワイナリーで働いた経験があったからだという。ワインの産地としても有名なホークスベイという町で、それほど大きな町でもないのに大勢の観光客が訪れる。

ワインによる復興の夢を語る及川武宏さん=仙台市内で、筆者撮影

 「美しい自然もあるが、ワイナリーに来る観光客も多かった。昼と夜の温度差が激しいところがワイン用のぶどうの適地と言われている。ホークスベイの気候もそうで、自分の育った三陸海岸とも似ていると感じた」とも言う。

 大船渡市で耕作放棄地になっていた土地を借りて、今春、ワイン用のぶどうの苗木を植えた。ぶどうが収穫できるまでには3年くらいかかるので、それまでは国内の栽培農家からぶどうを買い、岩手県内にあるワインの醸造工場でワインにして販売する予定だ。

 自前の醸造工場も建設する計画で、製造量が少なくても醸造の認可が取れるように復興特区の制度を活用できないか、いま研究中だという。