マレーシアだけでなく、シンガポールでも、なぜ長期にわたって一党が政権を圧倒的多数で支配できるのか。それは、日本でも問題が指摘されている「小選挙区制」にある(連載第1回はこちら)。
得票数が47%でも、議席数は60%の矛盾はどこから?
マレーシアでは、選挙区割りなどで、与党連合が自らに有利に選挙が展開される選挙制度を確立している。結果、今回のマレーシア連邦下院の選挙(5月5日実施)のように得票数が全体の47%でも、議席数は60%を確保できる。
というのは、サバ州、サラワク州といったボルネオ島(東マレーシア)の農村部で与党連合が長年地盤とする選挙区に議席数の多くが配分(約55%)されるため、政権が延命されるというわけだ。
今回も慣例通り、農村部の貧困層への生活援助等の経済的支援のばらまき政策が打ち出され、与党の過半数制覇を誘導した。
また政府は、多数派のマレー系と少数派の経済的富裕層の中国系との格差による対立を避けるため、マレー系優遇策(ブミプトラ*1政策)を採用してきたが、中国系、インド系の批判どころか、近年、マレー系からも「金権、汚職の温床」と追及を受けてきた。
*1 ブミプトラとは、マレー語で「土地の子」の意
対立は、もうこれまでの「少数派(中国系26%・インド系6%)vs 多数派(マレー系66%)」でなはく、「与党マレー系 vs 野党マレー系、中国系、インド系」と、“マレー人とマレー人の戦い”に様相を一変させている。
そんな中、選挙戦で与党連合は一貫して「ワン・マレーシア(一つの多民族融合国家)」と主張しながらも、「民族間の亀裂や価値観の相違」をも掲げ、選挙争点を旧態依然の“人種間問題”に当てた。
それに対し、野党連合は「政治の既得権益、金権主義、汚職の撤廃」「検閲のない主要メディアの報道の自由」で、都市部の中間層、若年層に「レフォルマシ(変革、改革)」をアピール。民族間に共通する「普遍的価値観、利益の共有」に焦点を当て、各民族からバランスの取れた支持を得た。