橋下徹日本維新の会共同代表のいわゆる従軍慰安婦問題での発言が、日本国内ばかりか、国際的にも大きな批判にさらされている。

 アメリカ政府当局者は、一連の橋下発言に対し、「言語道断で侮辱的」「戦時中、性的な目的のために連れていかれた女性たちに起きたことは、嘆かわしく、明らかに深刻な人権侵害で、重大な問題だ」と厳しく非難している。

アメリカを知らなすぎた橋下氏

 もともとこの問題には、アメリカは非常に敏感だ。第1次安倍内閣の時代の2007年3月、当時の安倍晋三首相がぶら下がり懇談で、慰安婦問題について「当初、定義されていた強制性を裏づけるものはなかった」、すなわち泣き叫ぶ人を強制的に連れて行く狭義の「強制連行」はなかったという趣旨の発言をした。

 この発言は、AP電や「ニューヨーク・タイムズ」によって、「安倍総理は慰安婦に対する強制性を否定し、河野談話(注)の修正を企図している」と報ぜられた。

(注:1993年8月4日、宮沢喜一内閣時代の河野洋平官房長官の談話で、「甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり」として、強制性を認めていた)

 この時、カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校で教鞭を執っていた東郷和彦元外務省欧亜局長は、『歴史認識を問い直す』(角川ONEテーマ21)の中で次のように書いている。

 〈安倍総理を慰安婦問題の否定者(denier)として糾弾する米国マスコミの論調は想像を絶してすさまじいものがあった。日本語の活字にするとどうしても表現できない、肌で感じる無気味な「日本否定論」が突如として噴出した。〉

 さらに6月14日には、日本の有識者によって「ワシントン・ポスト」に「強制連行はなかった」という一面意見広告が掲載されるに及んで、それまで下院外交委員会での慰安婦決議(日本に対する公式謝罪要求)が下院本会議でも決議され、同様の決議がオランダ、カナダ、EU議会でも決議されるまでになった。

 このアメリカが橋下発言に黙っているはずがない。

「やむを得なかった」では済まされない

 橋下発言に対し、元慰安婦の方の「自分の娘を慰安婦に送れるか」という憤りの発言がマスコミで紹介されている。この問題の本質はここにある。日本国内では、「強制連行があったか、なかったか」が大きな争点になってきた。官憲による奴隷狩りのような連行があったことは確認されていないため、「狭義の強制連行」はなかった、ということが、河野談話を批判する勢力からは強調されてきた。安倍首相も同様の立場を取ってきた。