バイエルン州に住むクラウディア・Bさん(61)の人生は、息子の誕生により激変した。息子ダニエルさん(28)は、病院の対応ミスで重度心身障害児として生まれ、生涯介護の必要な生活を強いられる羽目になったのだ。
それ以来、クラウディアさんは、息子のために損害賠償金を求める裁判で提訴し続け、どの裁判にも勝訴した。
だが、保険会社は28年過ぎた今も、損害賠償金の一部を支払っただけで、大半の支払いを拒否し続けている。ドイツ最悪の医療過誤スキャンダルとも言われるこの事件で、医療ミスを正当に評価してもらいたいと願い、法の下で闘い続けている1人の母親の姿を追ってみた。
危険サインがあったのに、放置されたままだった産婦
28年前に一体何が起こったのだろうか。筆者は医学や法学の専門ではないため、詳しく説明できないが、メディアの報道(アウグスブルガー・アルゲマイネ紙、シュピーゲル誌)によれば、おおよそ以下の通りだ。
1984年10月、クラウディアさんと夫アドルフさんは、息子の誕生を楽しみにしていた。妊娠中も問題なく過ごしたクラウディアさんは、夫とともにわが子を腕に抱きしめる日を夢見ていた。
陣痛が始まったクラウディアさんは、行きつけの病院へ急いだ。その後、破水があり、緑色の羊水が流れ出した。
羊水が緑色ということは胎児の排泄物によるものと言われ、その羊水にいる胎児は酸欠になるため、帝王切開やなんらかの緊急措置が必要だという。間違った対応をすれば、胎児になんらかの悪影響を及ぼすことは明白らしい。
クラウディアさんが緑色の羊水に気づいたのは夜中の1時ごろ。だが、病院スタッフは、クラウディアさんと胎児に対し何の処置も施さなかった。
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担当の産婦人科B医師は、夜中2時15分に帰宅、助産師Cさんはいつの間にか姿を消してしまい、クラウディアさんがCさんを見かけたのは夜が明けてからだった。
ダニエルさんは、その朝10時14分に生まれた。緑色の羊水という危険信号があってから9時間後のことだった。
「息子は蒼白で、産声も上げなかった・・・吸啜(きゅうてつ)反射(母乳を吸う力)も全くなかった」と、クラウディアさん。
「出生後、ダニエルは痙攣発作を繰り返していたのに、一般小児病棟へ移されました」