安倍政権の「3本の矢」のうち、第1の金融政策は黒田東彦総裁の「異次元の金融緩和」で華々しくデビューし、第2の財政政策は通年で100兆円を超す大型予算ですでにスタートしたが、第3の矢となるはずの成長戦略は、いまだに姿が見えない。
産業競争力会議で議論は始まっているが、6月をめどに取りまとめを行うというスケジュール以外は、ほとんど何も決まっていない。そんな中で、競争力会議の民間議員である長谷川閑史氏(経済同友会代表幹事)から「解雇ルールの見直し」という話が出てきて注目を集めている。
解雇ルールを巡って迷走する論争
こういう主張が出てくるのは初めてではない。小泉改革の経済財政諮問会議でも、民間議員から日本の雇用規制は過剰で不透明だという批判が出て、改正の論議が行われた。
しかし日本の解雇規制は、法律の条文としては必ずしも強くない。民法では雇用契約は一方からの申し出によって打ち切ることができるとされ、労働基準法では解雇の30日前に通告するよう定めているだけだ。ただ判例で「整理解雇の4要件」など司法的なハードルが高い。
これが問題になったのだが、逆に2008年の労働契約法改正で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇は無効」と「解雇権濫用法理」が明文化されてしまった。
このため派遣社員で雇うケースが増えると、厚生労働省は労働者派遣法の規制を強化し、このためパート・アルバイトなどの契約社員が増えると、厚労省は「非正社員を5年雇ったら正社員として雇用せよ」と労働契約法を改正してしまった。
このように財界が「解雇の自由」を求めると厚労省が規制を強化し、結果的に正社員の既得権が強められる一方、非正社員が増える「逆コース」をたどってきたのだ。