自動車は宮古島のサトウキビ畑の間を走り抜けていく。パラダイスプラン(沖縄県宮古島市)の社長、西里長治さんがハンドルを握りながら、高校時代の出来事を教えてくれた。

 高校3年生のとき、初めて先生に褒められたんですよ。高校卒業後の進路を書いて提出したら、先生から「職員室に来るように」と呼び出されました。また怒られるのかなと思って行ったら、「こういう志(こころざし)を持っているのはいいことだ」と言って褒められた。それまで褒められたことなんて、ほとんどなかったんですけどね。将来の進路として「農業でこの島を発展させたい」って書いたんです──。

 パラダイスプランは宮古島の海水から塩をつくり、販売する会社である。現在の事業の柱は「塩屋(まーすやー)」の展開だ。塩屋は、世界の塩を一堂に集めて販売する塩の専門店である。自社製の塩「雪塩(ゆきしお)」をはじめとする沖縄県産の約70種類の塩、さらに国内外の約500種類の塩を取り揃えて販売している。

 2004年7月に第1号店を沖縄県・石垣島に出店した。その後、県内に3つの店舗を増やし、2012年5月には東京に進出した。東京スカイツリー(東京都墨田区)の根元に広がる一大商業ゾーン「東京ソラマチ」への出店である。

東京ソラマチに出店した塩屋

 東京ソラマチに出店しませんかと電話がかかってきた時、西里さんは「冗談だろう」と思ったそうだ。「社員が電話を取ったんですが、スカイツリーに店を出すなんて、そんな話は絶対に冗談だから断りなさいって言ったんですよ。でも、担当者の方がお越しになって話を聞いたら、どうやら本当らしい。その方は那覇にあるうちの店をご覧になってくれたそうで、面白い店だ、接客もいい、と褒めてくださいました」

 こうして東京ソラマチへの沖縄からの唯一の出店が決まった。さらに2013年3月5日には、台湾にある百貨店「新光三越」にも出店した。石垣島で始まった小さな店が、世界中の観光客が押し寄せる東京の一等地に出店し、いまや海外にも羽ばたこうとしている。

 塩屋事業の成功によって同社の業容は大きく拡大した。第1号店をオープンする前年度の2003年3月期の売上高は、関連会社を含めて3億8900万円。当時の社員数は50名だった。それが現在は売上高が約13億円(経常利益は約1億円、2013年3月期)、社員数が145名である。13億円の売り上げのうち、塩屋事業の売上高は約7億円を占める。

「宮古島を発展させたい」という一貫した思い

 西里さんが宮古島でパラダイスプランを創業したのは1994年のことだ。観光農園から始まり、浄化槽メンテナンス事業にも手をつけ、そして製塩事業と、たびたび事業フィールドを移し替えてきた。紆余曲折を経てたどり着いたのが、現在の塩屋事業である。

 だが、どれだけ事業フィールドが変わっても、西里さんの中でぶれないものがある。それは「宮古島を発展させたい」という思いだ。