「信長のシェフ」をご覧になっただろうか。西村ミツル作による同名のマンガ(梶川卓郎画、芳文社『週刊漫画TIMES』)を元に作られたドラマだ。平成から戦国時代へタイムスリップした腕利きのフレンチシェフ「ケン」が、信長の料理人として活躍する話である。全9回の平均視聴率は10.9%と、ドラマ低視聴率の時代ではなかなかのヒットであった。

 このドラマをきっかけに調べてみたところ、どうやら最近、武士の料理、つまり“武士メシ”が密かなブームになっているようだと知った。そこで「武士メシに学ぶ」というテーマで武士メシブームを前後篇でひもといてみたい。

 前篇では、厳しい戦国時代における武士メシから、戦うためにメシを食べることの大切さを考えてみる。後篇では、いくつかのレシピとその効能から、武士メシの魅力を探ってみる。

メシ、これすなわち戦略なり

 3月15日に最終回を迎えた「信長のシェフ」。その面白さは、メシを利用した巧みな戦術にあった。現代のパーティーや商談でも、美味しい料理が重要な役割を果たす場面はある。その時のメシは、自分と相手の距離を縮めてくれるツールといったところだろうか。一方、戦国時代のメシは、生き死ににかかわる戦略の1つとして利用されていた。

 「信長のシェフ」では、信長が将軍・足利義昭に「朝倉攻め」を了承させるために料理を利用した。ケンは、越前でとれたカニやサバで義昭をもてなす。越前は朝倉義景の領地。そこでとれた食材を義昭が口にすれば、それは朝倉攻めを認める意味になる。義昭もそのことが分かっているから、宴に緊張感が走る。しかし、追い詰められた義昭は、状況にあらがえずパクリ。戦国時代、それなりの地位の者が人前で食事を取る行為には、大きな意味が込められていたのだろう。

 信長が妹婿の浅井長政と戦った「姉川の闘い」でのこと。不利な戦況を悟った信長は、浅井軍に食わす料理を作るようケンに命じる。その真意を汲みケンが敵兵にご馳走したのは、“肉を焼いたにおい”だった。ケンの思惑通り、その美味しそうなにおいで敵兵は戦意を喪失する。人の心理をついた作戦で戦況は変わった。

 食がこれほどまで戦略に使えることを知ると、日々の生活でも何かやってみたくなる。ちょっと刺激的で楽しいかも。そんなスリル感が、武士メシが興味を引く理由でもある。

戦をすれば腹がすく

 「腹が減っては戦ができぬ」という、武士とメシの関係をリアルに表現した諺がある。一方、「戦をすれば腹がすく」というのも真実である。現代人も仕事で戦えば腹はすく。