12月11日、資金難で危機に直面する米自動車ビッグ3を救済する法案審議が上院で決裂し、事実上の廃案となった。緊急事態を受け、ブッシュ政権が19日、総額174億ドルの「つなぎ融資」に乗り出し、米自動車業界は当面の破綻危機を回避した。しかし、これは問題先送りの延命措置に過ぎない。年明け発足するオバマ政権と今年11月の選挙で選出された新議会が、ビッグ3の命運を握ることになった。
来年、オバマ政権と議会はどんな手を打ってくるのか。予断を許さないものの、今回の審議が決裂した経緯を参考に「頭の体操」を試みる価値はありそうだ。
今回の救済案に対しては、共和党を中心に反対の声が上がった。上院の採決は賛成52票・反対35票となり、法案成立に求められる60票に届かなかった。なぜ単純過半数の51票ではなく、60票が必要なのか。それは、年内最後の議会が「レームダック・セッション」と呼ばれ、期間が限定されているためだ。仮に、賛成派が単純過半数で成立を目指しても、反対派は「フィリバスター」という議事進行妨害により、簡単に時間切れ廃案に追い込める。
上院のルールによると、フィリバスターの阻止には60人の賛成が必要。このため、11月の大統領選と同時に行われた上院選では、民主党が60の大台に議席を伸ばし、法案を意のままに成立させる力を持つかどうかに、注目が集まっていた。
結局、新議会でも民主党は60議席に届かない。同党の58議席(無所属2議席含む)に対し、共和党は41議席。残り1議席は、僅差のために得票未確定のミネソタ州の結果待ちだ。年明けに決まる場合、ミネソタ州議会の上院が裁定することになり、その過半数を占める民主党が優位と見られている。しかし、民主党が勝ったとしても、59議席にとどまり、フィリバスターを阻む60には及ばない。
ただし、米国の議会は党議拘束が弱いため、党派のラインに逆らって投票する議員が存在する。今回の救済案で賛成票を投じたのは、民主党の42人(無所属2人含む)と共和党の10人。共和党造反組のうち7人は来月からの新議会へ戻るため、彼らの意見が変わらなければ賛成派は49票を確保できる。
今回、民主党からは3人の議員が造反して反対票を投じた。一方、新議会で増える民主党4議席の投票行動は、まだ分からない。しかし、オバマ人気で当選した民主党新人が、次期政権の出鼻をくじくとも思えない。民主党の反対が今回同様3人にとどまり、共和党の7人が賛成すれば、「59-3+7=63」で可決できる。オバマ政権が本気でビッグ3救済に踏み切るなら、法案成立の可能性は十分ある。