1989年3月以来、私と妻はいわゆる「事実婚」の夫婦として生活してきた。
婚姻届を提出しなかったのは、一組の男女が協力して家庭を営むのに、どちらか一方の戸籍に入る必要はないと考えていたからだ。
1947年に改正された現在の戸籍法は、明治民法の柱であった家制度の解体を目的としており、厳密に言えば「婚姻届を提出すること」=「入籍」ではない。婚姻届の用紙を見ても「夫になる人」と「妻になる人」の欄は横に並んでおり、男女の平等が強調されている。
ところが、「(4)婚姻後の夫婦の氏・新しい本籍」とある項目が曲者で、ここで選択された氏の側が「戸籍筆頭者」として、事実上の「戸主」となる仕組みになっている。
男女平等の原則に基づくならば、婚姻後の氏をどちらにするかは、夫婦となる2人の話し合いによって決められるべきである。その結果、夫の氏を名乗る夫婦と、妻の氏を名乗る夫婦の割合は5対5に近づいていきそうなものだが、それは空想でしかない。現実には、実に97%もの夫婦が、婚姻後の氏として夫の氏を名乗っており、その割合はほとんど変化していない。
つまり日本において、結婚とは、夫を戸籍筆頭者とする夫婦になることなのである。そのため、妻の氏を名乗ろうものなら養子に入ったと思われて、そうではないと弁明するのにどれほど骨が折れるのかは、私が身を以て検証済みである。
21世紀になっても「嫁に行く」や「婿を取る」といった表現が廃れる気配がないように、家制度は我々の意識に深くしみついている。
そうした風潮に対して、私と妻は、結婚後も男女は対等でありたいと考えていた。「戸籍筆頭者」という名目であれ、夫婦の間に主従関係を持ち込みたくはない。
私たちが暮らすアパートの入口には、夫婦連名の表札(手書き)が出されて、近所の人たちもそうしたカップルとして自然に接してくれた。また私も妻も相手の親兄弟と仲良くつき合ってきたし、冠婚葬祭の席にも必ず2人で参列した。親戚たちも我々を夫婦として扱ってくれて、事実婚であることを理由に非難されたりはしなかった。
それではなぜ、妻が妊娠8カ月になった時点で婚姻届を提出したのかと言えば、子供が生まれる以上、事実婚を貫くのはデメリットが大きすぎると判断したからだ。
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一般に、事実婚のデメリットとして挙げられるのは、子供が「非嫡出子」として扱われることである。
婚姻届を提出していない女性が子供を出産した場合、その子は「非嫡出子」となり、女性は「未婚の母」の烙印を押されてしまう。
誕生後に父親である男性が子供を認知すれば子供の両親が誰であるかが法律上特定されるが、男性が既婚者である等の理由から認知に至らない場合も多い。