最近、中国で「所得倍増計画」が盛んに議論されている。
かつて日本の池田勇人内閣は、1960年に「所得倍増計画」を策定した。当初は10年間で国民所得(国民総生産)を倍にするという計画だったが、予想外の高成長が続き、わずか7年間で所得倍増計画の目標を達成できた。
日本経済にとって、所得倍増計画の成果は、単に所得を増やしただけでなく、社会インフラの整備や産業構造の高度化など、経済全般を底上げできたことにあった。
実は鄧小平が30年前に「改革開放」政策を始めた頃、国民経済規模(GNP)を20世紀末までの約30年で4倍にすることを目標として掲げていた。90年代に入り、高成長が続いた結果、90年代半ばにその目標が達成されてしまった。
現在、中国で議論されている所得倍増計画は、明らかに池田内閣の計画の中国版である。
中国経済は、60年代後半の日本経済に構造的によく似ていると言われている。インフラ整備など公共投資に依存する体質はその類似点の1つであるし、高い貯蓄率という点もよく似ている。
所得倍増計画は、低所得層の不満を鎮めるため
いかなる国の、いかなる経済計画も、国民に経済発展の方向性を明確に提示する重要な意味がある。50年前に池田内閣が進めた所得倍増計画は、日本経済を底上げする意味において重要な役割を果たした。
発展途上段階にある国において、国民の多くは将来の方向性を見失うことが多い。毎年の成長率が発表されても、国民がその利益を享受する実感は必ずしも確かなものではない。
中国が今後の発展方向性を見失うことは考えにくいはずだが、国民の半分以上を占める低所得層は目下の経済成長のメリットを十分に享受しておらず、所得格差は予想以上に拡大している。最新の調査によると、上位1%の富裕層に40%の富が集中していると言われている。
5月末に、日本を訪問した温家宝首相は所得格差の拡大を認め、社会不安定要因になっていると指摘した。
実際に今年に入って、沿海部の主要都市で出稼ぎ労働者不足という「民工荒」の現象が起きている。その背景に、出稼ぎ労働者の賃金水準が経済成長率を大きく下回っていることがある。
また、米アップルの部品製造を受注する部品メーカーのフォックスコン(中国名:富士康)では、長時間労働と低賃金の管理体制により労働者の飛び降り自殺が相次ぎ、社会問題に発展している。
さらに、中国に進出しているホンダの部品メーカーの労働者はストライキに突入し、組立生産ラインまで生産停止に追い込まれた。