日銀が6月14、15日に開催する金融政策決定会合で具体的内容を正式決定するとみられる「成長基盤強化を支援するための資金供給」について、思考を少し展開してみたい。
日銀政策委員会メンバーは、4月30日の金融政策決定会合で、この新たな資金供給策について3つの留意点を共有した。すなわち、「(1)通常の金融政策運営の遂行上制約にならないこと、(2)個別企業へのミクロ的な資源配分に過度に介入することを回避すること、(3)日本銀行の資産の健全性を確保すること」である。
日銀が5月21日に公表した骨子素案、およびこれまでに出てきたマスコミ各社観測報道を総合すると、新たな資金供給策は、以下のような内容になる見通しである。
(1)対象先
共通担保オペ(全店貸付)の対象先のうち希望する先。
(2)資金供給の方式
共通担保を担保とする貸し付け(共通担保オペと同様の方式)。
(3)貸付期間
原則1年とし、借り換え(ロールオーバー)を可能とする。
→ 複数回のロールオーバーが可能になる見通しで、実質的に3~5年の資金供給となり得る(後述)。成長分野については一般に、果実が得られるまでの期間(=銀行による融資期間)がかなり長いとみられることを勘案したもの。
(4)貸付利率
貸付時の無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標水準。
→ 政策金利水準が変動すれば、それに応じて貸付利率も変動する仕組みになっている。したがって、円の金利体系の中で最低の金利水準が、常に調達コストになる。ただし、新型オペ(3カ月物)によって、0.1%という金利水準で資金供給が大量に行われており、短期金利のイールドカーブがフラット化していることから、新しい資金供給制度を利用することによる金利コスト面でのメリットは、現在の金利状況では、非常に小さいと言わざるを得ない。また、5月の貸出・資金吸収動向等速報があらためて示したように、国内の銀行では預金が潤沢に積み上がっており、貸出が減少する中で「カネあまり」状況が強まっている。
新制度を利用しようとする需要が顕著に増加すると想定されるのは、皮肉なことに、デフレ脱却・早期利上げ観測が市場で強まって、短期金利のイールドカーブがスティープ化するケースである。資金調達コストは利上げ前の翌日物金利のままなので、駆け込み的に資金需要が生じる可能性がある。しかし、後述するように、今回のスキームには1~2年の貸付受付期限が設けられる方向。この期間内に利上げ観測が高まらないと、この資金供給制度は利用が低調なまま、期限切れを迎えかねない。なお、当の日銀から、「市場金利の上昇が期待される局面で、相対的に金利が低くなる貸出制度の需要は大きくなる」という幹部の発言が出ている(6月9日 産経新聞)。日銀の粘り強い金融緩和で、市場金利の上昇が期待されない現在のような局面では、需要が大きくなりにくいということである。
(5)対象先ごとの貸付額
対象金融機関から成長基盤強化に向けた取り組み方針の提示を受け、そのもとで行われた融資・投資の実績に基づき、当該金融機関に対して貸し付けを行う。
→ 1行当たりの貸付上限については、「1000億円程度とする案が浮上」しているという(6月5日 日経新聞)。これは、冒頭で触れた4月30日会合における3つの留意点のうち、特に(2)(個別企業へのミクロ的な資源配分に過度に介入することを回避すること)とも関連している。
→ 対象分野については、「環境やエネルギー、先端技術開発、医薬、観光など18分野とする方針」(6月6日 毎日新聞)。
→ 日銀はバランスシートに信用リスクを直接取り込むことは回避し、あくまでも民間金融機関の成長分野向けの貸し出しをバックファイナンスする役回りにとどまる。これは、冒頭で触れた4月30日会合における3つの留意点のうち、(3)(日本銀行の資産の健全性を確保すること)と、密接に関連している。