アフリカ北部・リビアの元最高指導者、カダフィ大佐が同国のシルトで殺害されたのは、2011年10月20日だった。当時は、独裁者カダフィを抹殺すればリビアに春が訪れ、北アフリカ一帯は安定に向かうだろう、と言われていた。

 ところが、あれから1年3カ月が過ぎた今、現実は真逆なことが進行している。

 例えば、暫定政権のリビア国民評議会(NTC:National Transitional Council)。反カダフィ勢力によって組織されたNTCには国際テロ組織アルカイダのメンバーが食い込んでいる。NTCが、その後シャリア(イスラム法)による統治を宣言したことで、周辺諸国は震え上がった。

イスラム過激派が勢力を拡大するマリ共和国

 カダフィの死はアラブに春を招くどころか、北アフリカ、西アフリカを中心に深刻な影響をもたらしている。

 マリ共和国も例外ではない。現在、マリ共和国は南北分裂の危機にある。2012年3月に軍事クーデターが発生し、国を二分するような危機的状態に至ってしまったことも、実はカダフィの死と無縁ではない。

マリ共和国の首都バマコ

 トゥアレグ族が占拠するマリ北部のアザワド地域は、もともとアフリカやそれ以外のアラブ地域からのイスラム過激派が集結している場所である。トゥアレグ族は国際テロ組織である「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ機構(AQIM)」と連携し、2012年4月6日、一方的にアザワド国家の樹立を宣言するなど、反政府勢力の巣窟になっていた。AQIMは2000年代、アルジェリアで多くのテロ行為を繰り返した後、マリ北部に入り込んできた勢力だ。

 また、アルカイダのリーダー、ウサマ・ビンラディンの出身国であるサウジアラビアからもサラフィー主義のイスラムグループが、カタールからは「アンサール・ディーン」と呼ばれる組織が入り込んでマリ北部を占拠した。そして、西アフリカの過激派「ムジャオ」、ナイジェリアの「ボコ・ハラム」などの組織もマリ北部に入り込んでいる。いずれもジハード主義組織で、イスラム法に基づいたイスラム国家の樹立を目指しており、「聖戦(ジハード)」の名の下に欧米に対する軍事攻撃も辞さない反政府勢力だ。

 マリ共和国の統治力の弱さが、過激派勢力の北部への侵入を許すことにもなった。また、複数の国と国境を接しているマリは、麻薬や武器を密売するには地理的にも都合がよかった。