6月8日、菅直人氏が正式に首相となり、新内閣が発足した。仙谷由人官房長官は「仕事大好き内閣」と形容。菅首相自身は就任会見で、自らが尊敬する高杉晋作が創設した、幕末の長州藩の武士・庶民双方による混成部隊になぞらえて、「奇兵隊内閣と名付けたい」「幅広い国民の中から出てきたわが党の国会議員には、奇兵隊のような志を持って勇猛果敢に戦ってもらいたい」と述べていた。今回の閣僚で、いわゆる「2世議員」は中井洽国家公安委員長だけだという。ただし、「奇兵隊内閣」が戦う相手である「幕府」にあたるものが、自民党などの野党なのか、それとも停滞・閉塞感が強い経済状況や極端に悪化している財政事情なのかは判然としない。

 今回の内閣では、鳩山由紀夫前内閣の閣僚の過半数が留任しており、市場が注目した財務相についても野田佳彦副大臣の昇格という、想定範囲内の決着になった。国会の会期が残り少なく、その後には参院選が控えているため、政策運営の継続性が重視されたのだろう。筆者なりに名付けると、指揮官が交代したことによる「気分一新内閣」といったところか。兵員の構成に大きな変化はないものの、その士気は民衆による支持回復を受けて、以前より高くなっているようである。

 また、首相指名後・組閣前のマスコミ各社による世論調査では、菅首相に「期待する」という回答がいずれも60%前後という高い水準になった。鳩山首相および小沢一郎民主党幹事長の退任によって、国民が懸念していた「政治とカネ」の問題にとりあえず区切りがついたことから、無党派層の支持が回復しているようである。

 しかし、ここで注意すべきは、内閣としての力量が問われるのは、菅首相がよく用いる言い回しを借りると、「まさに」これからだという点である。日本経済や財政の状況、日本を取り巻く海外経済および金融市場の状況が、何か急に変わったわけではない。また、米軍普天間基地移設問題なども含む個別の政治課題が内閣支持率に今後どう影響してくるのかを、じっくり見極めていかなければならない。気分だけでは、戦いには勝てないのである。

 組閣の過程で筆者が残念に思ったのは、少子化担当相が「たらい回し」になった、と報じられたことである(6月8日 読売新聞)。

「菅新政権の閣僚人事は、消費者や少子化の担当でも、『たらい回し』が続いた。菅氏は、玄葉政調会長や国家戦略相に起用する荒井聰首相補佐官に消費者・少子化相の兼務を打診した。玄葉氏にいったん『政調だけで忙しい』と辞退されるなど、調整がつかなかったが、最終的には少子化相は玄葉氏、消費者相は荒井氏で決着した。少子化相は、民主党の目玉政策である子ども手当を担当する。しかし、財政難で民主党が約束した月額2万6000円の支給は厳しくなっており、『少子化相が敬遠されたのは、子ども手当を削減して批判の矢面に立つのが嫌だったからではないか』という見方がある。『少子化相がたらい回しにされ、世の女性からクレームが来ている。誰でもいいので決めて下さい』。民主党のある女性議員は7日、しびれを切らして菅氏に電話でこう迫ったが、菅氏はその時は、『調整は仙谷さんがやっているから。仙谷さんに言ってよ』と語るだけだったという」

 少子化担当相を公務員改革も担当する玄葉光一郎民主党政調会長が兼務することになった点について、関係者からは「『ついでに担当する』というようにも聞こえる。大臣の数合わせだ」と不安と不満の声が上がっているという(6月9日 毎日新聞)。財政を含む日本経済の未来を真剣に考えた場合、少子化対策を含む多面的な人口対策の問題は避けて通ることができないというのが、筆者の持論である。その意味で、少子化担当相は特に重要な、力のある政治家に専任で担当させてもよいポストだろう。だが実際には、今回も軽い扱いになっているように見える。「第3の道」「第2のケインズ革命」といった、概念が先行していて実現可能性・実効性に疑問符が付く経済政策の道筋を論じるよりも、もっとしっかりやるべきことがあるように思うのだが。