インド伝統の弦楽器シタールの名奏者ラヴィ・シャンカールが、12月11日、米国のカリフォルニア州サンディエゴの病院で死去した。92歳だった。

 30代以下の者にとっては、グラミー賞歌手ノラ・ジョーンズの父親であるインド音楽の大家という知識上の存在、過去の存在と言えるかもしれないが、11月4日には、実娘アヌーシュカ(ノラの妹)とシタール競演を披露したばかり。90代に至るまで生涯現役だった。

インド音楽を世界に広めた貢献者

ガンジス河の朝日。ヒンドゥー教、仏教の聖地として知られるベナレスには、ひたすら死の訪れるときを待つ人も多い

 聖なる川ガンジス沿いの都市バラナシ(ベナレス)に生まれたシャンカールの名が日本で知られるようになったのは、サタジット・レイ監督の『大地のうた』(1955)が公開された1966年頃のこと。

 世界中で高い評価を得ていたインド人の目を通してのインドの映像をバックアップしていた、そのシタールの響きからだった。

 しかし、インド音楽を世界に広く知らしめた伝説的存在と称されるまでに押し上げたのは、同じ頃始まったビートルズのジョージ・ハリスンとの交流によるところが大きい。

ラヴィ・シャンカールの娘ノラ・ジョーンズ(写真は大ヒットアルバム「Come away with me」)

 2001年にジョージが亡くなるまで続いたふたりの関係は、マーティン・スコセッシ監督によるドキュメンタリー『ジョージ・ハリスン リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』(2011)で詳しく語られている。

 普通なら一生かかっても得ることなど望めない桁違いのカネやモノを、デビューからわずか数年で手にしてしまったことから、物質社会への疑問に囚われてしまいもがき苦しむジョージが、その救いを精神世界、そしてインド世界に求めていく姿が映し出されている。

 グローバリゼーション華やかなる現在、急速な経済発展を続け物質社会への道を突き進むインドに、かつてのような神秘的イメージを持つことは難しいかもしれない。

 その音楽に対するイメージにしても、もはや、シャンカール作品のようなクラシカルなものではなく、恋愛劇でもアクション映画でも何でもかんでもジャンルレスに俳優たちが突如踊り歌いだすような歌謡映画(日本では「マサラムービー」と呼ばれている)の音楽など、ポピュラー音楽へと変移してきている。

 ダニー・ボイルという非インド人監督の手による『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)は、そんな現代インドの抱える問題をちりばめた社会派的要素を持ったエンターテインメント作品だ。