スイスでは、近年、バーンアウト(燃え尽き症候群)の話題が絶えずメディアに出ている。正確な統計はないが、推計で、働く人のおよそ30%がバーンアウトに苦しんでいると報道されている。昔に比べ、バーンアウトの数は確実に増えたと心理専門家たちは指摘する。

 ドイツやオランダなど周囲でも似た傾向が見られる国々もあり、この言葉は日本でも聞かれて久しいが、今ヨーロッパではバーンアウトは人々の関心を集めている。

敏腕な人もバーンアウトに!

長時間労働でうつ病リスクが2倍以上に、英研究

猛烈に働き続けて、ある日突然、心身が悲鳴を上げることも 〔AFPBB News

 バーンアウトに陥った人たちを、私は何人か知っている。あまり詳しくは書けないが、紹介してみよう。

 独身の男性Aさん(スイス人)は、独立して働いている。Aさんは仕事が大好きだったので、起業したという知らせを聞いても、きわめて当然に思えた。それが、何年かしたときに、精神クリニックに入院したと耳に入ってきた。理由は働き過ぎ。疲労困憊したのだった。

 心配していたが退院できた。けれど、それも束の間で再入院した。どのくらい経ったころだろうか。ようやく元気になり、趣味に沢山の時間を費やしていると聞いた。最後に会ってから随分月日を経た今春、私はAさんに会った。Aさんは笑顔で会話したものの、以前の溌剌さは消え、疲れが刻み込まれた顔をしていた。

 2人目もバリバリに働いていた男性Bさんだ。近隣国から仕事を求めてスイスにやって来た。Bさんは妻もフルタイムで働き、マンションも購入した。

 Bさんは非常に仕事ができる人だともっぱらの噂だった。大きな仕事が入り、同僚たちと進めていたが、ある日、会社で倒れた。その仕事がうまくいくかどうかが心配でたまらず、数時間しか眠れない夜が続いていたのだという。心も体もプレッシャーに耐えきれなくなったのだ。

 周囲は「あのBさんが」と驚いた。Bさんは敏腕な人だから、そんな危機的な状態だったとはみな気がつかなかったらしい。Bさんは通院しながら自宅でゆっくりと休養した。今は元の仕事に復帰したが、仕事の量は減らしている。